2006年03月04日

魚話その69 二刀流使いの物憂げな午後

●ペニスを2本持つ魚


69回目だ。
ねじめ正一の『熱血じじいが行く』をなぜか思い出してしまった。

昔流行ったしょーも無いクイズから。

3艘のボートがあり、それぞれ男二人、女二人、男と女一人ずつ乗っている。
で、一艘だけ沈んでしまうのだが、どれでしょう?

文字にするのも恥ずかしいのだが『チンボ×2』→『チンボツー』→『沈没』で男二人が乗ったボートが答えになる。

ハァ…。

でもこの問題、ヘビとサメの仲間には当てはまらない。
どちらの生物も、オスは2本持っているのだ。
ただし、哺乳類のペニスのように排泄器官と兼用しているわけではなく、精液を輸送するための溝もしくは管を持った棒状の器官といった感が強い。
ヘビではヘミペニスと呼ばれており、普段は引っ込んでて目立たない。
交尾の時にウニョッと出てくるのだ。
しかもすっぽ抜け防止(と言われている)のための突起が表面に出ているのだ。
いい画像を発見したので、こちらを(9月14日の日記)。
人間でも真珠突起を持ったヒトがいるらしいが、ヘビとは用途が違う。
2本あることから、ヘミペニスは『蛇の足』と言われることもある。
蛇足って実在するのかぁ…

さて。
話がシモネタになる前に本題へ。
サメのペニス、専門用語ではクラスパー(交接器)と呼ばれており、腹ビレの組織と腹びれの骨に由来するとされている。
どうせなら実物を出した方が面白いので、写真をば。
撮影したのは偶然死体が入手できたドチザメ。
釣れたり、浜に打ち上げられたりと、お目にかかることが意外と多い小型のサメだ。

背側
ドチザメ背面.jpg

腹側
ドチザメ腹面.jpg

大きさは90cmくらいか。

クラスパーと腹鰭
ドチザメクラスパー.jpg

クラスパー拡大
ドチザメクラスパー拡大.jpg

クラスパーの裏側
ドチザメクラスパー裏側.jpg

クラスパーの裏側をよく見ると、孔が開いている(赤い矢印)。
射精された精液が入る場所になるのだろうか?
ドチザメクラスパー裏側根元.jpg

で、出口を調べようと思って棒を差し込んでみると…
ドチザメクラスパーの溝.jpg

棒はクラスパーから抜けてしまう。
管ではなく、確かに溝なのだ。
管のように見えるのだが、端同士が重なっているだけなのだ。
模式図はこちら。
クラスパーの溝模ョ図.jpg

クラスパーがメスの生殖孔に挿入され、溝を伝って精液が送り込まれる。
水族館で見た限りでは、だいたいどのサメも似たような外見だった。
ヘビと違ってサメの交接器は外からでも目立つので、すぐに雌雄の判別が付く。
水族館で雌雄の判別ができる魚の1種だ。

ところで、これらの動物で持っている2本のペニスは同時に使われるのだろうか?
かつてサメ専門家達の間でも1本使用派と2本使用派に分かれたらしい。
現在ではサメは1本使用派に落ち着いているらしいが、だとすると、何のために2本あるのだろうか?
左右の使い分けがあるのだろうか?
エイも同じような形態のペニスを持つが、その1種ウシバナトビエイでは2本同時挿入が観察されているという。
オトナの世界は謎だらけだ・・・


今日の魚
ドチザメ(Triakis scyllia)
ウシバナトビエイ(Rhinoptera javanica)


参考文献
骨の学校2 (森口満 木魂社)第1版 P139〜141 5次
サメのおちんちんは2つ (仲谷一宏 築地書館)第1版 P36〜50 4次
サメ (矢野和成 東海大学出版会)第1版 P81 4次
浦野動物病院 5次


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2006年03月05日

魚話その70 ノドで噛め!

●咽頭歯について


『魚話その37』『魚話その65』で咽頭歯について触れたが、よく考えると、きちんとした説明をしてなかった。
というわけで今回は咽頭歯の説明。


咽頭歯に関する著書を多数書いている中島経夫氏の文献を調べてみる。
そもそも歯とはどのように定義されるのか?
氏の文献によると
1.発生学的に上皮と間葉の相互作用でできあがる
2.組織学的に、硬組織はアパタイトが主成分である
3.機能的に、摂餌に関する器官である
この3つを満たしているのが『歯』であり、『咽頭歯』もまたこの条件を満たしている。
咀嚼に使うほか、咽頭歯をこすり合わせて音を出したりする。
特に口に歯をもたないコイの仲間では、咽頭歯が発達しており、化石や死体から種同定する際にも咽頭歯が重宝されている。
ちなみに大型のコイになるとタニシの貝殻を割ってしまうほど強力だと言われている。

で、どこにあるのか?
咽という字の通り、咽の奥にある。

コイ科の話をしておきながら恐縮だが、まずはトビウオの写真である。
だって安かったんだもん。


トビウオ.jpg
図1.トビウオ

で、鰓近辺はこんな感じでくっついている。
トビウオエラと鰓耙の位置関係の図.jpg
図2.鰓の配置(トビウオ)


で、口から覗いた場合、こんな感じに見える。


トビウオ咽頭歯正面位置関係の図.jpg
図3.正面から見た咽頭歯と鰓の位置関係(トビウオ)


で、黒い線でズバッと切ってみると、咽頭歯の形がより明らかになる。


トビウオ咽頭歯上の図.jpg
図4.上側の咽頭歯(トビウオ)


トビウオ咽頭歯下の図.jpg
図5.下側の咽頭歯(トビウオ)


実際には肉に隠れていたりするので全部見えるとは限らないが。

せっかく『コイ科魚類の咽頭歯が云々』と書いてきたので、今回は標本が余っているアブラハヤの咽頭歯を実際にとってみた。
トビウオとは異なり、咽頭歯は上下には分かれず、左右にのみ分かれていた。
図6と図3をぜひとも比較してもらいたい。


アブラハヤ咽頭歯正面.jpg
図6.正面から見た咽頭歯(アブラハヤ)


撮影する方向を変えてみよう。
図7は咽頭歯のみを背側から見た写真だ。


アブラハヤ咽頭歯上面.jpg
図7.背面から見た咽頭歯(アブラハヤ)


図8は右側の咽頭歯を左側面から見たもの。
つまり、右側咽頭歯の食べ物が通過する側(内側)を撮影したものだ。


アブラハヤ咽頭歯模ョ.jpg
図8.左側面から見た右側の咽頭歯(アブラハヤ)


以前紹介したサンマの咽頭歯は上下に分かれていたが、前後には分かれていなかった。
図3の上顎咽頭歯(後部)がない写真を想像していただきたい。


肉に埋もれたアブラハヤの咽頭歯を取っていて親知らずをふと思う。
実はこの年(1980年生まれ)になっても親知らずが一本も生えてこない。
歯科医には『虫歯になったらヤヴァいよ〜』と脅される日々が続く。
歯をお大事に…


今日の魚
コイ(Cyprinus carpio)
アブラハヤ(Phoxinus logowskii)
トビウオ(Cypselurus agoo agoo)


参考文献
魚の形を考える (松浦啓一 他 東海大学出版会)第1版 P69〜114 3次


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2006年03月09日

魚話その71 ヌマムツA様カワムツB様

●カワムツの分類


最近の魚汁は自前の標本からのネタ多い。
生活環境が変わるワケではないのだが、年度末ということでなんとなく標本の整理を始めたのだ。
モノグサな性格ゆえ、容器に複数種の標本を入れることが多い。
ひどいモノだと、採集日時と場所しか書いていなかったりする。

さてこの写真の標本にはカワムツという走書きがしてあった。

カワムツ.jpg

コイ科の魚で、平地の川や沼にいる。
このカワムツ、ちょっと前に2種類である事が指摘された。
色合いやウロコの数で、2つのグループに分けられるのだ。
それを受け、図鑑ではしばらくカワムツA型、カワムツB型と表記していた。
採集当時からそれは知っていたのだが、2種を並べて比較した経験がなかったのと、研究室の採集旅行の最中だったので同定する余裕がないままお蔵入りとなった。
当時はまだA型B型が主流だったので、なんとなく『カワムツ』と書いておけば(気分的なイミで)誤魔化すことができた。
しかし、AやBにはそれぞれヌマムツとカワムツという新称が与えられた。
2種類に分けられ、しかも呼称が定まったのなら『僕の標本の魚は一体どっちなんだ?』という疑問も沸いてくる。

『魚話21』にも書いたように、液浸標本は生存時の色が保存されないため、色合いからは判断ができない。
そこで側線上のウロコの数(側線鱗数)を数えてみる。
側線鱗数は種の判別に重要な数だ。
なぜ側線なのかは憶測によらざるをえないが、共通の数え方を設ける意味があるのだろう。
文献によるとカワムツは46〜55、ヌマムツは53〜63である。
とりあえず側線(で指した部分)の鱗の枚数を数える…

カワムツ側線.jpg

僕の標本は48枚だったので、カワムツ(旧カワムツB型)であることが分かった。

このように呼称が変更されることはいろいろ混乱が起きる。
今回は生物の和名の変更だったが、器官や組織、物質の名前もコロコロ変わったりする。
研究活動を行っていると、論文を書く機会がある。
論文には参考文献を掲載するのだが、かなり古い文献を調べなければいけない場合もある。
そんな時、呼称の変更を知らないと、本来あるべき情報量よりも得られる量が減ってしまう。
研究/論文を書いて生計を立ててる人たちには重要なことなのである。

まあこのブログみたいなカルいサイトには縁が無いのだけれど。
いや、同じ魚本で新版と旧版の両方を買って比較して楽しんだりするから、無縁ではない…か(←暇人)


今日の魚
カワムツ(Zacco temmincki)
ヌマムツ(Zacco sieboldii)


参考文献
日本の淡水魚 (川那辺浩哉 他 山と渓谷社)第2版 3次
神奈川県水試 http://www.agri.pref.kanagawa.jp/suisoken/naisui/fishfile/kawamutu.htm 4次


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2006年03月18日

魚話その72 イワシをナメるねぃ!

●イワシの栄養


僕は通学に埼玉県の某駅を使っているのだが、いつの頃からかキヨスクでイワシ製品を扱うようになった。
スーパーなどで売られているイワシの水煮や味噌煮だけではない。
こんなのまで売られている。

イワシカレー1.jpg

イワシカレー2.jpg

イワシカレー…
このブログの主旨は『魚を愛で、古今東西の魚に関する知見を広げる』ことだから、買わない訳にはいかない。
早速購入。
価格は200円也。

さて。
イワシといえば、平安時代から登場する。
当時は下賎な魚だったようだが、イワシが好きだった紫式部は『日の本はいははれ給ふいはしみず、まいらぬ人はあらじとぞ思ふ:岩清水八幡宮に参詣しない人はいないと思う』と言ってイワシと岩清水八幡宮をかけて返し、イワシを馬鹿にする夫の鼻をあかした伝承が残っている。
ただし、僕の手持ち資料では、上記の歌を詠んだエピソードが紫式部(『図説 魚と貝の辞典』『魚料理のサイエンス』)の場合と和泉式部(『金目鯛の目はなぜ金色なのか』)の場合がある。
一体どちらなのかは、今後調べようと思っている。

さて、『魚汁その64』で紹介した門守りのように信仰の一環として使う風習もあるが、少なくとも江戸時代においても高級魚ではなかったようだ。
ただ、和漢三才図会(下の写真)にも出ているように『凡鯨與鰯本朝海中寶也其利用不可計:(肥料や保存食など)その用途は非常に広く、クジラとイワシはわが国の宝である』と、その利用価値は高く評されている。

和漢三才図会イワシ.jpg

現在では数が少なくなった上にその栄養価が見直され、高級魚としての地位を確立しつつある。
ただし、いくらイワシが栄養豊富だからといって、イワシだけを食べるのは良くない。
イワシにはビタミンB1を分解する酵素、チアミナーゼが含まれているため、ビタミンB1が不足するのだ。
かつてイワシだけを餌としてハマチを養殖していた時にビタミンB1欠乏症にかかってしまったというエピソードもある。
が、イワシしか食べない人間はいないわけで、普通の食生活にイワシが加わる分にはメリットの方が圧倒的に大きい。
動脈硬化防止に役立つといわれているEPA(エイコサペンタエン酸) は多価脂肪酸の一種であるが、五訂日本食品標準成分表によると可食部100gあたりの多価脂肪酸量は、約3.81gで他の魚のおおよそ4倍(0.8〜1g位のが多い)に相当することが分かった。
また、別の資料によると血圧安定に役立つタウリンも豊富なようだ。
やはりイワシはナメちゃあいかんようだ。

さて。
永々と書いてたら、イワシカレーが良い感じに温まってきた。
お味のほどは…


今日の魚
マイワシ(Sardinops melanostictus)


参考文献
金目鯛の目はなぜ金色なのか (佐藤魚水 新人物往来社)第1版 P28〜29、P72〜86 5次
魚料理のサイエンス (成瀬宇平 新潮選書)第1版 P38〜43 4次
図説 魚と貝の辞典 (望月賢二 柏書房)第1版 P360〜362 3次
五訂食品成分表 (食品成分研究調査会 医師薬出版株式会社)P136〜174 4次
和漢三才図会7 (島田勇雄 他 訳注 平凡社)第1版 P178〜179 4次
和漢三才図会 第49巻 (寺島良安 長野電波研究所) 原本コピー※ 4次

※web用の画像資料として、所蔵元である長野電波研究所の了承を得ています。

イワシカレー 信田缶詰株式会社


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2006年03月27日

魚本その7 水族館の不思議な生き物

明日のゼミの準備の現実逃避作業で書いている。
はぁ…。
今回紹介するのは『水族館の不思議な生き物』。
この本、2006年4月6日付けの発行になっている。
出版会のいろいろな事情があるのだろうが、単純な僕は先行入手した気になって嬉しくなり、紹介することにしたのだ。

今まで読んできた水族館モノの本は、飼育奮闘記的な本が多い気がする。
そんな中で異彩を放っているのが本書と『全国水族館ガイド』である。
両方とも著者は同じなのだが、今回は『水族館の不思議な生き物』を。
この本の便利なところは、なんと言っても動物/魚別に水族館を紹介していること。
『この水族館には○○がいてウンヌンカンヌン…』ではないのだ。

著者は鳥羽水族館のアシカトレーナー/新鳥羽水族館プロデューサー/鳥羽水族館副館長等々の様々な経歴を持ち、現在も水族館関係のアドバイザーなどの役職を持っている。
そんな水族館ベッタリの人が取材し、1500以上の写真の大半にコメントを添えている。
読んでいるうちに水族館へ行きたくなってくるのだ。

全ページフルカラーなのも非常にお買い得感を高めてくれる。
掲載生物は約500種、魚だけでなく両生類・爬虫類・鳥類・哺乳類と多岐にわたっているので、掲載量に物足りなさを感じるかもしれない。
しかしそれは野暮ってもの。
行って・見て・さらに新発見してっていう楽しみがあるのだ。
僕はこれくらいがちょうどいいバランスだと思うのだが。
『本に掲載されていた』動物しか見ないんじゃあ、仁和寺の法師になっちゃうぜい。



今日の魚本
水族館の不思議な生き物 
中村元 
ソフトバンククリエイティブ株式会社(2006年)
ISBN:4797333030
1900円
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