2011年12月05日

魚話その188 ヒツジさんをディスるな

●未年の魚は存在しない?


2011年になって既に8000時間近く経過してしまった.
実はこの文書ファイルは2011年元旦にできたのだが,年賀状の作製シーズンに合わせて寝かせておいたのだ.

事の発端は去年の暮れ.
毎年干支にちなんだ魚を挨拶状に描いてきたが,そもそもどれくらいいるのだろうか?
そんな疑問を抱き,さっそく調べてみた.
『魚図鑑の向き』ネタと違い,ありがたいことに魚名には『日本産魚名大辞典』という総覧が存在する.
3000弱の日本産魚類に対し,標準和名+方言を約15000,学名+英名を約18000,中国名を約2000,ロシア名を約1000掲載するという怪物書籍である.
収録数は僕が大雑把に目次から算出したが,実際には同名異種も多く,収録魚名数としてはもう少し増えるはず.
1981年出版と古いが,ここまで網羅した書籍が存在せず,魚名関連の文献を逐一調べていたらこちらがパンクしてしまう.
そのため手抜きではあるが,日英33000語とのニラメッコのみとした.

ルール
・干支に相当する動物の名称が入っている場合も数える
 例:カラスザメ(烏鮫)→酉,タカノハダイ(鷹羽鯛)→酉
・干支を含むが,人名由来などの場合は数えない
 例:カモハラトラギス→(鴨の腹ではなく,蒲原さんに由来するので,寅)
・干支を含むように見えて,異なる区切りの単語であった場合は数えない
 例: フクロウナギ(フクロウ・ナギではなくフクロ・ウナギ)
・複数の方言を持つ場合,同じ干支なら一つ(例1),異なる干支なら干支の種類分(例2)数えた
 例1:トラギス,トラハゼ(いずれもアカトラギスの方言)→寅として1
 例2:ウシヌスビト,トラハゼ(ウキゴリの方言)→丑,寅としてウキゴリをそれぞれの干支に1
・資料が古いので,和名の変更を加味し,『日本産魚類検索(第二版)』で確認
・最新情報は僕が追いつかないので省略
・全て素人による個人の手作業なので,見落としや誤認はご勘弁
・本当はロシア語と中国語,学名も集計したかったのだが,面倒なので照合が大変なため泣く泣く今回はパス.

さて.
標準和名,方言,英名を集計した結果が以下の通りだ(図1).


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図1.標準和名,方言,英明において干支を冠する魚名 a)集計した魚種数,b)干支を冠する魚類のうち占める比率



スズメダイは仲間が多いので酉に偏るかなぁ…という予想を遙かに上回り,結果として2位である巳に倍近い差がついた.
方言も似たような傾向であったのに対し,英名では酉の圧勝モードが若干弱い.
次点は巳と寅.
それぞれ模様や形状などにちなんで命名されているためだろうか?
一方,調べた資料からは干支の抜けも散見された.
特に未は標準和名,方言,英名ともに存在せず,ある意味興味深い.
ヒツジが国内に導入されたのが明治の初頭ゆえ,魚のあだ名に用いられるほどの馴染みがなかったのか?
しかしながら,サルやイノシシといった日本人には馴染み深い動物も『抜け』が存在することから,形態にちなんだ命名にも得手不得手があるのだろう.
また,方言データの蒐集に関しても,日本産魚名大辞典は大量の文献を引用しているとはいえ,引用元の研究対象地域が特定の地域に焦点を当てているものであれば,情報の充実度も地域によって粗密が出うる.
一つの理由で『抜け』を説明できるとは到底思えないが,上記のような理由があるのかも…と想像してみるのも楽しい.
ところで,どこかにヒツジを冠する魚はいないかなぁ…と考えていたら,Sheephead fishという人間のような歯を持つ魚のことを思い出した.
名前は知られていないかもしれないが,魚ネタ画像や2chなどでリンクが貼られる魚だ.
そんなわけで,案外ウェブ上では有名な魚が未を冠しているのであった.

毎年毎年干支にちなんだ魚を見つけ出し,展示を行っている水族館には恐れ入る.
あれこれ書いていたら,あと700時間で2012年である.
年賀状の図案に少しでも役立てたら,幸いである.


本日の魚
大量にあるので,sb188SUPPLY.pdfに掲載.


参考文献
日本産魚名大辞典 (日本魚類学会,三省堂)第1版
日本産魚類検索 (中坊徹二,東海大学出版会)第2版
魚介類2.5万名前大辞典 (日外アソシエーツ)第1版
posted by osakana at 01:58| 埼玉 ☔| Comment(0) | TrackBack(0) | 魚話 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2011年12月07日

旅モノその38 管理人のいちばん長いホネの日 その6 プレゼンヌ

2日目.
最終日でもある.
今回忙しい中2日間も手伝ってくれたMさんや,遠くからわざわざ見に来てくれたO先輩など,久々に会った人も多く,ちょっと懐かしい気分になったりもした.
脳内では既にスタッフロールが流れているのだが,午後に講演を控えていたため,まだまだ終了モードではなかった.
余りにもみっともない発表をしたら,声をかけてくれたなにわホネホネ団のニシマキ団長に申し訳ない.
そんな思いを胸に秘め,二日酔いと戦いながら,展示スペースの裏でコソコソとスライドをいじっていた.
ちなみに『もう使ってる人なんていないよね〜?』とGIZMODEでは書かれているが,一世を風靡したネットブックEeePC901Xは我が家ではまだ現役.
このPCのおかげで様々な発表やら論文やら就職に巡り合い,十分元を取った気はするが,手持ちのPCの中で最も起動が早い(でも非力)ので,現在も第一線で活躍中なのである.

脱線した.
そんなこんなでギリギリまで準備し,いざ発表.
職場や学会などでプレゼン自体は頻繁に行っているのだが,趣味の活動ではこれが初めてである.
しかも骨格標本自体は『魚が好き』という趣味の一環で手を出しているだけなので,本業とも全く縁がない.
場合によっては『あの坊主,なんで当たり前のことを喋っているんだ?』と思われる可能性も高い.
その旨を断った上で,魚類の骨格標本作製で自分が試していることを15分ほど話した.

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発表会場(発表会前なので人は少なめ)

幸いにも質疑応答セッションが無かった(実はあった)ため,あまりボロを出さずに済んだと信じたい…

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『骨の学校』でおなじみのミノルさんの発表


講演後に残された数時間の接客をこなし,無事サミットは終了.
結局最後まで『素人魂の管理人です』とカミングアウトすることなく終了した.
まぁ言ったところでこのブログを知っている人はほとんどいないのだけれど…

館内放送では,2日で11000人の来場とのこと.
実際は常設・企画展での人数カウントなので,そこからホネホネサミットに流れてくる人数が何割なのかは不明だが,北海道や沖縄からの人々とも話したことから察するに,この日のために骨密度の高い人々が終結していたとは確かだ.
第3回があれば,ぜひとも参加したいところである.


〜おまけ〜

展示の合間を縫って見てきた魚関係のブースおよび入手した物品をいくつか.
※ブログ掲載の許可を取り忘れたブースがあるので,そちらは念のため掲載を控えた.

GALVANIC

毎度おなじみ骨オヤジ氏のブース.
いつもは客として遊びに行っているのだけれど,今回は同じ出展者として参加.
新作のマタマタが非常に気になったのだが,配付資料の印刷や製本で懐に余裕がなかったため我慢.

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ブース

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マタマタの全身骨格

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頭部アップ

ささっと展示の準備を完了する骨オヤジ氏たちは,やはり『プロ』.
普段見る展示台の一つ一つに工夫が込められており,驚くことばかり.
勉強させてもらいました.


Skulltula & はにわ屋工房
ワンフェスでも何度か購入したことがある,この方々.
フィギュアの対象が個人的にはかなりツボ.
今回はブースが隣だったので,いろいろお話も聞かせて貰うことができ,非常に楽しい3日間を過ごすことができた.
実は骨オヤジ氏経由で,今回はSkuultulaの中の人に資料を提供したりもしている.
裏ではいろいろなネットワークがあるようだ.
配布誌の校閲を手伝ってくれた後輩に頼まれていたので,ワンフェスで見つけたカメレオンの骨格をもう一つ購入.
新作のヒラメの骨格標本をいただいてしまった.
感謝.

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いただいたヒラメ骨格(Skulltula)

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後輩に土産で買ったカメレオン骨格(Skulltula)

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カラス骨格(Skulltula)

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ペンギン骨格(Skulltula)

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カエル骨格(Skulltula)

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コキジバト骨格(はにわや工房)

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ウシガエル骨格(はにわや工房)

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アマガエル骨格(はにわや工房)

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アマガエル骨格・透明樹脂の肉体付き(はにわや工房)

いずれのフィギュアも5センチないくらいのサイズ.
アマガエルに至っては2センチほど.
匠の世界である….


Skull!Skull!Skull!

web上で何度か情報のやり取りをしたことがあるLoki:君が参加していたので,挨拶に.
ヤツメウナギの骨格を出してくるとは思わなかった.
プライベート用の名刺を渡したところ,『うふぉ!和漢三歳図絵っすね!』と即答.
ホネと古文献蒐集が被っており,近い将来またいずこで会うような気がしてならないワカモノであった.

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ヤツメウナギの骨格(液浸)

さりげなく展示している骨格のラインナップが曲者揃い.
トラザメの全身骨格やウツボの頭骨+咽頭骨,ヤツメウナギの骨格など,普通の人はやりません…


アクアトトぎふ
実は今春開催された魚の骨格標本のワークショップ『ホネホネ合宿IN岐阜』に参加予定だったため,久々の再開となるはずだった人々でもある.
残念ながらこちらの体調不良により欠席してしまったので,今回が初対面.
本当はこちらから挨拶に行こうと思っていたのだが,なにわホネホネ団のニシマキ団長が連れてきてくれた.

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ピラルク頭骨

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ソウギョ全身骨格

水族館のメリットを活かしたラインナップで見応えがあった.
ピラルクの頭骨が個人的にはお気に入り.
いつかやってみたいところだけれど,問題はどうやって入手するか…


S君のブース
沖縄より参加した,S君のブース.
オニダルマオコゼの頭骨が見事すぎる.
『歪みを最小限に抑えるためには,交連状態(つながっている状態)をいかにキープするかがキモ』と主張するS君はまだ大学1年生.
将来が恐ろしいワカモノである.

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ブース

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オニダルマオコゼ(側面)

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オニダルマオコゼ(正面)


そういえば僕のブログを知っていたようだけれど,別の人が書いていたと思っていた模様.
そしてその『別の人』も僕の友達だったりする.
このイベントを通じて点と点が線になり,網になり,ネットワークが広がっていく.


さてさて次のホネ関連イベントは東京ミネラルショーとワンフェス2012冬.
財布はもつのか…?
posted by osakana at 00:50| 埼玉 ☔| Comment(0) | TrackBack(0) | 旅モノ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2011年12月10日

魚話その189 リアルタイムじゃないホネ取り(サメの頭部骨格標本)その0 〜予備情報〜

●軟骨標本作製に必要な情報など


過去に『リアルタイムホネ取り』と題し,魚の骨格標本作成法について紹介したことがある.
あれは硬骨魚類が対象で,基本的には四足動物と同様である.
今回は軟骨魚類の骨格標本作成法の様子.
何度も触れているように,軟骨魚類の骨は水分などの揮発性物質が多く,乾燥とともにひしゃげてしまう(図1).


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図1.乾燥に伴い歪んでしまったドチザメの顎(スケールバーは1cm) a)左前方,b)下顎腹側 下顎後端は通常ここまで反り返っていない


その歪みを改善したので,速報的に紹介したのが,『魚話その187』
ただし,現在も試行錯誤中の手法であり,また,一般家庭では夏場の高温多湿を乗り切れるのか不明なのが問題だ.
また,僕が個人入手できるサメは現状ではせいぜい全長1.5mが上限である.
使用する樹脂はそれほど頑強ではないので,大型のサメや華奢な構造物には強度が足りないかもしれない.
しかし,僕が軟骨用に簡略化アレンジしたことを除けば,考古学などではすでに当たり前の手法である.
僕自身は秘密にする気は無いので,皆が楽しめればよいなぁ…と思い公開しているのだが,注意点もある.
一つは特許との絡み(後述).
もう一つはホルマリンなどの薬品を使うので,ドラフトや廃液回収などの設備が整った少なくとも高校の実験室レベルの施設を想定していること.
したがって,該当しない人はただのブログとして読み飛ばして欲しい.
個人で試して事故が発生しても一切責任を取れない.
とりあえず今回は序章として,標本作製に必要な周辺情報をば.


・大まかな原理
キーとなるのはポリエチレングリコール(以下PEG)という水溶性の高分子.
水溶性で,乾燥するとカチカチになる.
また,溶解度が高く(図2),融点が60℃ちょいと低いのも特徴だ.
この物質を使った処理の概略が図3となる(フローは『魚話その187』の図1).


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図2.PEG 4000が溶ける様子 a)1リットルの60%(w/v)PEG溶液用に用意したPEG 4000の顆粒,b)水を加えて半日後,c)1日後


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図3.軟骨標本作製の概要 a)風乾,b)エタノール脱水(有機系樹脂への置換のに必須な前処理),c)PEG処理


・骨格の部位の名称
サメの骨格標本は水族館でも目にする機会が少ないせいか,骨格の名称が硬骨魚類ほど詳細に掲載されているサイトが見つからなかったので描いてみた(図4).


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図4.ドチザメの頭骨(左前方より) a)防歪処理済みの頭骨,b)各部位の名称(スケールバーは1cm)


いろいろ名称を書いたが,とりあえず覚えておいて欲しいのは吻軟骨,鼻殻と口唇軟骨.いずれも成功or失敗の指標となる,標本作製のキーパーツだ.


・特許との絡み
毎回書いているのは,僕が法律に疎いため.
『よろしい,ならば勉強だ』といきたいところだが,どこから手をつけてよいのかがまったく判らない.
高校や大学の部活動で学会や公的イベントで発表した際に一悶着あったとしても,『学校だから例外』として認められるのかが僕にはわからない.
なので,とりあえず僕が公開されている手法から解釈していることを書いてみたいと思う.
1.PEG処理の下準備に凍結乾燥する(染み込みやすくなる手法)
2.PEG溶液を減圧して浸透させる(染み込みが速くなる手法)
3.PEG処理した標本を凍結乾燥する(形を崩さないように速やかに乾燥させる手法)
4.乾燥したPEG処理済の標本を加熱処理する(染み込んだPEGを頑丈にする手法)
この1〜4をやるとNGになると僕は理解している.
創意工夫はとても大事だと思うのだけれど,特許になっている以上は十分気をつけて欲しい.
また,この手法自体は特許庁から短い和文で公開されているので,原文をぜひ読むべきだ.
僕の素人解釈を鵜呑みにして共倒れになる可能性は高い.


…長々と書いたが,次回から実際の作業紹介に移りたいと思う.


本日の魚
ドチザメ:Triakis scyllium Müller & Henle, 1839


参考文献
新魚類解剖図鑑 (木村清志,緑書房)第1版,P72
生物起源のものの標本作成法法(特開平10−287501)付属資料
posted by osakana at 00:42| 埼玉 ☔| Comment(0) | 魚話 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2011年12月11日

魚話その190 リアルタイムじゃないホネ取り(サメの頭部骨格標本)〜その1〜

注意!
・解剖の描写があるので,ご注意ください.
・本文中に『一般入手できる』というニュアンスの記述がありますが,一般家庭での作業を推奨する意味ではありません.
・高校や大学の生物系サークルなど,大型専門機器の購入が困難ではあるものの,しかるべき施設と知識を持った人が対象です.
・ホルマリンを扱うので,その取り扱い方法/処理方法が確立している方々を対象としております.
・ポリエチレングリコールとエチレングリコールは別物です(危険度も).
・現在も試行錯誤中の手法であることにご留意ください.
・最初のうちは入手が容易な種の,特に顎(頑丈かつ歪みやすいなので)を使って試されることをお勧めします.
・本件での事故や貴重なサンプルの損傷は一切責任を取れません.



最初に前回の補足.
今回の手法が試行錯誤中であることは何度も書いているが,サイズ制限の話を書き忘れていた.
サメのサイズ大きくなるほど薬品の量が増えるのは想像に難くない.
『魚話その187』で述べたように接着剤が使えないため,分割して処理をするのが難しいのだ.
薬品節約のため,耐熱ビニールに入れる等の対処法を試したが,ちょっとした手違いで圧迫され,吻軟骨と鼻殻が曲がってしまった.
結局きちんとした容器を用いる方が無難だ.
また,種によっては華奢なパーツが多い場合もある.
そういった種では,液交換時に収縮・変形することがあった.
それでも,ただ風乾するよりは歪みが少なかったのだけれど…

前置きはここまで.
さっそく実際の作業に移ろう.
ホルマリンに浸す前までの手法は,一般的なサメの顎取りにも応用可能だ.
用意するのは,100℃まで測定可能な温度計とお湯.
全長1.5m程度のサメまでは,上記の2つでホネ取りの90%はなんとかなった.
それ以上のサイズとなると,サメ本体のサイズがかなり巨大になり自宅の冷凍庫には収納不可能なため,未経験.
イタズラに大きくすると,以降の作業で必要な薬品の量もコストもバカにならないので,サイズはあまり欲張らない方が良い.
これに加えて眼科剪刀(先反り)とピンセット,スパチュラ(調色スティック)があれば完璧だが,似たようなもので代用可能だ.


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図1.用意する道具と手頃なサイズのサンプル @眼窩剪刀,Aピンセット,Bスパチュラ,C温度計


まず60〜65℃の熱湯を用意し,サメの頭を浸す.
この温度が結構大事で,これより低いと除肉ができず,高いと肉や骨格を通じて歯の根元が熱くなり歯も抜ける.
歯が抜けてしまうので,首元→背中→側面→吻部という順番で歯を避けるように浸す(図2).


sb19002.jpg
図2.湯引き処理の様子 a)首元,b)側面,c)吻部


いずれの部位も5〜10分程度で皮がブルブルになるので,これを爪やスパチュラでこそぎ落とす(図3).
軟骨を傷つける恐れがあるため,この段階ではハサミは極力使わないようにすること(刃物を使わなくてもこそぎ落とせるくらいに加熱処理してある方が,綺麗に仕上がる).
やむを得ずハサミを使用する場合は,剥がれたウロコを必ず流水ですすいだ後にしないと刃がボロボロになるので注意.
所要時間は1時間ほど.
慣れればもう少し速くできる.


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図3.除肉の様子 a)湯から上げた直後,b)スパチュラでこそげ落としている様子,c)除肉がさらに進んだ様子,d)スパチュラによる除肉終了の目安 (クリックで拡大)


視神経や腱を残すのみとなったら,ハサミの出番(図4).


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図4.ハサミによる除肉開始の目安(図3dの流水洗浄後)


置換歯を隠している歯茎や,口蓋の皮や肉を切り取る.
PEG処理では乾燥による収縮が少ないため,取り残した肉の凹凸がそのまま残ってしまう.
接着剤が効かないので交連状態を維持する必要があり,腱や一部の肉を残さねばならない.
切って良い肉か否かを慎重に判断しよう(図5).


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図5.注意すべき部位(仰向け姿勢で撮影) a)頭蓋骨と上顎を繋ぐ腱(種類によって繋がり方が異なる)と吻軟骨,b)口唇軟骨


自己満足の世界ではあるが,前述したように除肉後の形状がそのまま残るので,納得するまで作りこんで欲しい.
穴の除肉には歯間ブラシなども便利だ.


sb19006.jpg
図6.見落としがちな部位 鼻殻の内部(黄色矢印),顎関節(青矢印),眼窩の穴各種(赤矢印)


表面に残った肉は刃物を使うよりも,キムワイプなどで拭いてやると綺麗に取れる.
気が済んだらペーパータオルを使って口を開いているようなポーズに整える.
歯が抜ける可能性があるので,舌と口蓋の部分(歯よりも少し咽寄り)にペーパータオルをあてがう方が良い.
ホルマリン原液の20倍希釈液に浸し,本日の作業は終了(図7).


sb19007.jpg
図7.ホルマリン処理 a)ポーズの設定,b)ホルマリンに浸している様子 
※機材の関係上,除肉が不完全な状態で撮影してしまったが,実際にはもっと除肉してからホルマリン固定した方が良い.


本日の魚
ドチザメ:Triakis scyllium Müller & Henle, 1839
posted by osakana at 14:37| 埼玉 ☔| Comment(0) | 魚話 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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