2014年07月04日

魚話その200 osakanaさんは心配性

●取扱注意なホネ取り用の薬品


本記事は骨格標本作製時の事故防止を目的としており,有害物質製造の幇助のつもりは一切ありません.
また,悪用目的で検索されそうなキーワードを避けるため,具体的な物質名が一部掲載されていない場合がありますが,ご了承ください.
僕も素人なので作業に伴うトラブルは一切取れません.
自己責任でお願いします



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晩酌のコップが結露する季節だ.
卓上の水滴を見て,“無色透明の一滴のこぼれた液体が,失明に繋がる(魚話その176)” という一文を思い出した.


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図1.無色透明の液体 a)滴下直後,b)傾けて放置
原液の場合,アセトンはさっさと蒸発,グリセリンは粘性が高くて垂れない.
とは言うものの,濃度によっては他の溶液と見た目では区別できない.
家族や同居人は判断できないと思った方が良い.



そんな経緯もあり,我が家の標本呑み会で薬品取扱い等の勉強会(?)もやってみた.

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図2.いつもの呑み会Power Pointを使った勉強会


今回はホネ取りに絞り,『化学や法律に疎い僕が,事故防止のために注意している点(解決策ではない)』を紹介したい.
化学的な原理等,書いていないその項目は大量にあるけれど,必要だと思ったら各自で積極的に調べて欲しい.

注)名前が異なる複数の製品があったりするので,ここに対象薬品を掲載し,以降は省略した(字数節約).
毎回含まれていると思って欲しい.

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1.単品での注意が必要な物質

文字が多いので,最初にまとめの表を載せて,後から補足.


表1.単品での注意を要するホネ取り薬品等の例
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・市販のパイプ洗浄剤および家庭用漂白剤(塩素系,酸素系ともに)
組合せにより有毒ガス等が発生する危険性(後述)もある.
また,時間経過で濃度が変動することがある.
例)塩素系漂白剤の場合,半年で次亜塩素酸の濃度が約半分になる [1].

・過酸化水素水
爆発性や人体への影響が強く,劇薬だ(普通は10倍希釈して使用)[2, 3].
徐々に分解されてガスが出るため,原液の容器にもガス抜きの穴が開いている.
使用後の溶液をペットボトル等の密閉容器で保管すると,破裂するので危険.


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図3.a)手に付着した状態,b)35%過酸化水素水の容器の蓋にあるガス抜き穴,c)使用済オキシドールを容器に詰めて半日後
0.1mlもついてないのに,手に付着すると数分でヒリヒリ(苦笑).
対処法はSDS(後述)で各自調べましょう.
オキシドールは過酸化水素水に換算すると,わずか10分の1の濃度.
にもかかわらず,半日でこんなに膨張.
絶対に密閉容器に入れない.



・有機溶剤(アセトンやベンジン)
健康被害に加え,気化・引火しやすいため,要換気&火気厳禁[4,5].
衣服の静電気でも引火・爆発することがあるようなので,冬場は特に注意.

・固定液(ホルマリン)
シックハウス症候群で有名になったホルムアルデヒド,この水溶液がホルマリンであり,有毒[6].
液浸標本や透明標本を作製している人は要注意.

・魚由来の物質
フグ等,釣り場で簡単に入手できる有毒種がいる.
特にテトロドトキシンやシガトキシン等,一般の加熱調理では無毒化できない魚毒もある.
アイゴやゴンズイ等,毒の棘を持つ魚種にも注意が必要だ.
また,熱湯で除肉する人も,野外で拾った腐りかけの魚を扱う際には蒸気の吸引に注意.


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図4.有毒魚の一例 a)オオカマス,b)ソウシハギ
毒魚=フグの印象かもしれないが,有毒魚は他にもいる.
地域限定の場合もあるが,触らぬ神に祟りなし,手を出さない方が賢明だ.



2.混ざると危険な物質


表2.混合に注意を要するホネ取り薬品等の例
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過酸化水素+アセトン[4]
失明・指が吹っ飛ぶレベルの深刻な爆発事故の恐れあり.
実際にはもう1ステップ必要だが,万一に備え,絶対にこれらの接触の接触を避ける.
特に漂白時の過酸化水素水がホネに残留する可能性があるので,最初に脱脂,十分乾燥・揮発した後に漂白を行う.

過酸化水素+特定の金属[2, 3]
鉄や銅,銀等があると急激に分解が進み,ガスが大量に出るため,これらの材質の密閉容器に入れた場合,爆発する恐れがある.

塩素系漂白剤+アセトン[7, 8]
トリハロメタンの1種(超有害)が発生し,摂取・吸引する危険性がある.
また,エタノールでも同様の反応の危険性がある.

塩素系漂白剤+酸性の物質[1, 9]
塩素ガス(有毒)が発生し,非常に危険.
また,次亜塩素酸と過酸化水素を混ぜても酸素しか発生しないようだが,不純物まみれで濃度不明なホネ取り作業では避けるべきだろう(ハイターを用いた硬骨魚類のホネ取り論文でも塩素ガスの注意喚起をしている[10]).


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図4.pHによる次亜塩素酸の挙動(資料9より引用・一部変更)
洗濯/台所用品として販売されている塩素系漂白剤は塩基性に調整されている.弱酸性にて殺菌力が強くなるが,誤操作で塩素ガスが発生するリスクも高まるので,絶対にやらない.



・塩素系漂白剤+特定の金属[11]
アルミや鉄等の容器は腐蝕されるので,容器には不向き.
過酸化水素水でも触れたが,容器の材質は要吟味.

・臭気止めトラップでの混合
下水側からの臭気が上るのを防ぐための,水道管パーツ.
トラップはただの水溜まりなので,ここで薬品が混ざってガスが発生する危険性がある.
流し台等で作業する時も要注意だ.


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図5.臭気トラップの例
実際には様々な型があると思うけれど,とりあえず代表的な形状を.
とにかく水が溜まっている部分が鬼門.



3.事故防止に向けて
化学系の人から見たら『この程度で起きないって』とか言われる可能性もある(その逆も).
ただ,ネットで情報を得た人が,どんな解釈・条件下で作業するか分からないし,洗浄剤・漂白剤のような混合液で,しかも肉や脂等の不純物が溶け込んだ状態では何が起きるかわからない.
ブログで全体公開する以上,安全側にシフトさせて書いている.


表3.安全策および想定される事故の例
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・生活空間と分ける
新鮮な魚でも,調理とホネ取りの器具の共用は避ける.
また,拾った魚の死骸や薬品の保管も誤食や揮発性物質による食品汚染のリスクがあるので,専用に冷蔵/冷凍庫を用意する.

・保護具の着用
実験用の試薬は当然として,『一般入手できる家庭用品だから安全でしょ?』という先入観も捨てる.
実際かなり強烈な薬品はあるし,使用目的がメーカーの想定外なので,ほぼ確実に使用者の責任だ.
保護メガネや解剖手袋の着用等,安全に配慮した格好で作業する.
特にコンタクトレンズは跳ねた薬品によって眼球とレンズが貼り付く危険性もあるので,より注意が必要だ.
その際,保護具の耐薬性も調べておくこと[11].

・換気の徹底
有機溶剤等の有毒ガス対策としての換気は当然として,鮮度が悪い魚を扱う際も要換気.

・すすぎの徹底
魚体やホネに残留した薬品のことは見落としがちだ.
魚のサイズや残肉量が異なるので一概には言えないが,僕の場合15cm程度の魚ならば流水で15〜30分,30cm程度だと何度も水を新しいものに替えながら数時間〜半日はすすいでいる.
それ以上のサイズはバラしてしまうので,パーツのサイズによりけり.

・容器の吟味
長期保管なのか,一晩使うだけなのかで違うけれど,薬品と相性の悪い組合せは把握しておくこと.
様々な樹脂の耐薬性をまとめたサイトもあるので,参考に[11].

・SDS(Safety Data Sheet:安全データシート)による事前チェック[12, 13]
要は薬品の取扱説明書(日本語版あり)で,『薬品名+SDS』で検索すれば簡単に入手できる.
既に所有している薬品は当然として,購入検討中の薬品も要チェック.
ハイター等の台所用品はSDSがないこともあるが,成分表の化学物質をSDSでチェック.
メーカー側もトラブル防止のため,『このSDSを読み,全項目を理解するまで薬品を使用しない』と書いている.
また,同じ薬品でも複数のメーカーから販売されていることがあり,濃度や添加物が異なる場合もあるので,購入したメーカーのSDSを確認する.


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図6.SDS掲載項目の例
赤字は掲載が必須,黒字は必要に応じてメーカーが書き足せる項目.
メーカーによって微妙に表記が異なるかもしれないが,基本的に一緒.
というか,海外のSDSも似たような体裁になっている.



※かつてはMSDS(Material Safety Data Sheet:化学物質等安全データシート)と呼ばれていたが,2012年にMSDSからSDSへ名称が変更された.
生物系出身なのでSDSって別の試薬でなじみ深いから,紛らわしい…

・薬品の処理
自治体によってルールが異なる.
有料で業者回収が引き取ってくれる場合もあるので,各自SDSを読みつつ,薬品購入前に自分が住む自治体の担当者に問い合わせよう.
廃液処理の目途がつかないのなら,ホネ取りしない.

以上ダラダラと書き連ねたが,少年漫画で『これで最後だと思うなよ!』とザコ敵が吐く台詞と同様,いくらでも薬品事故のネタは出てくる.
とりあえず,『このブログに書いてないから安全だと思った』ではなく『いろいろ危ないことがあるみたいだから,自分でもっと調べよっと』と考えてもらえれば幸いである.


魚話もようやく200話かつ10周年.
実はSeesaaブログは2代目のブログで,MSNスペース(サービス終了)で2004年に書き連ねた駄文を移植した.
正確な日時は覚えていないが,たしか大学院に入った後の蒸し暑い時期だったので,この際7月スタートにしてしまおう.
この10年で大学院を卒業し,就職したりしたのだけれど,やっていることはあまり変わっていないような気がする.
今後ともゆるくお付き合いくださいませ.


本日の魚
アイゴ Siganus fuscescens (Houttuyn,1782)
オオカマス Sphyraena putnamae Jordan & Seale, 1905
ゴンズイ Plotosus japonicus Yoshino and Kishimoto, 2008
ソウシハギ Aluterus scriptus (Osbeck, 1765)


参考資料
[1] 製品Q&A 次亜塩素酸ナトリウムについて(高杉製薬株式会社)→リンク
[2] 過酸化水素水のSDS(昭和化学株式会社)→リンク
[3] 過酸化水素水のSDS(宇部MC過酸化水素株式会社)→リンク
[4] 平成22年度 化学物質取扱者のための安全衛生講習会(筑波大学 配付資料)→リンク
[5]アセトンのSDS(三協化学株式会社)→リンク
[6] ホルムアルデヒドのSDS(昭和化学株式会社)→リンク
[7] Wikipedia(ハロホルム反応)→リンク
[8] 山崎昶先生が答える 化学質問箱 第38回(化学同人)→リンク
[9] 次亜塩素酸ナトリウムの殺菌力とpHの関係(株式会社クレオ)→リンク
[10] 骨魚類の骨格標本作製法(佐々木 彰央,岡 有作)海・人・自然(東海大博研報),2010,10,51-57
[11] 耐油性・耐溶剤性・耐薬品性(共和ゴム株式会社)→リンク
[12] SDS制度(経済産業省資料)→リンク
[13] 化管法におけるMSDS制度の概要(環境省資料)→リンク
posted by osakana at 13:14| 千葉 ☔| Comment(0) | TrackBack(0) | 魚話 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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