2005年12月09日

魚話その50 天然クローン

●脊椎動物のクローンあれこれ


とうとう50回目である。
節目に何をしようかな〜と考えたが、ここはやはり、僕の学生生活に影響を与えたクローンの話をしようと思う。
巷でブームになったクローン人間の話ではない。
自然界にふつ〜に生じる天然クローンの話だ。
ちなみに天然クローンの出現過程は3種類知られている。
NHKなら『三夜連続で…』とくるところだが、魚汁ではそんなことはしない。
3回に分けて紹介するつもりだったが、あんまり詳しく書いても仕方がないので、高校生物の教科書で扱う言葉で話題を展開していくことにした。

まぁ節目だが、特に気にせずいつもどおりユルユルやっていこうと思う。

天然クローンは3通りあると書いた。
アメーバや細菌のように分裂する生物は無視することにする。
背骨のある、高度に進化した脊椎動物のクローンである。
下の図は、高校の生物の教科書に出てくる体細胞分裂と減数分裂の流れを簡略化した図である。
細胞分裂.jpg
普通の細胞分裂、つまり体細胞分裂は、単純に1つの細胞が2つの細胞に分裂する現象だ。

さて。
『鼻は母親似だけど、口元は父親似なのねぇ…』と言うように、両親のDNAを受け継ぐ必要がある。
しかし、単純に父親のDNAと母親のDNAを受け継ぐと、子供のDNA量は毎代2倍ずつ増加することになる。
そんなわけで子供を作るための準備としての特殊な細胞分裂、減数分裂が存在する。
減数分裂は細胞のDNAを半分に減らすのだ。
ただ半分に減らすのではない。
細胞に存在する1セットのDNAは対になっており、それらのうちの半対を子孫を残すための細胞(卵とか精子)に用いるのだ。
減数分裂.jpg

そうして半セットずつを受け取ることで、両親の特徴を持った子供ができるわけだ。

前置きがglobeのマーク並に長くなってしまった。
本題に入ろう。
この減数分裂がちょっと変わっているために、自然界には『お父さんいらない』『お父さんは誰でもいい』『一代限りのお父さん』という3通りの天然クローンが存在する。

『お父さんいらない』
専門的には単為発生(Parthenogenesis)という。
爬虫類が例にあげられる事が多く、ミミズヘビとかトカゲの仲間(Cnemidophorus属)で知られている。
ある意味究極である。
母親が特殊な減数分裂で、DNAを半減させない卵を作る。
つまり半セットのDNAが入った卵ではなく、1セットのDNAが入った卵を生むのだ。
で、その卵が孵ると母親そっくりの子供(娘)ができるいうわけだ。
また、トカゲの仲間では、メス同士で交尾のような行動をとり、その後産卵が行なわれると言う報告もある。
想像妊娠&出産というか、処女出産というか、いやはや…
単為発生.jpg

『お父さんは誰でもいい』
専門的には雌性発生(Gynogenesis)という。
魚での報告例が多く、日本ではフナやドジョウがこの繁殖方法を行っている(全部ではない)。
母親が特殊な減数分裂で、DNAを半減させない卵を作る。
で、その卵が孵る。
単為発生と似るものの、『精子が卵に潜り込む』という『刺激』が必須だ。
ゆえに産卵の際には精子源たるオスが必要である。
ただし、オスの遺伝情報は取り込まれない。
とにかく刺激のために必要なのだ。
したがって、オスはなんでもいい。
別の種のオスの精子でも構わないのだ。
例えばドジョウのメスが産んだ卵にキンギョの精子をかけても、正常なドジョウの子供が生まれるのだ。
人間のだとどうなんだろうか…?
雌性発生.jpg

『1代限りのお父さん』
専門的には雑種発生(Hybridogenesis)という。
カダヤシの仲間(Poeciliopsis属)などで報告されている。
これはややこしい。
見かけ上は普通の減数分裂を経て、遺伝子が半分の卵を作る。
しかし減数分裂で母親の遺伝子のみを選択して卵に詰め込んでしまう。
そうしてできた卵は、別種のオスの精子でも受け入れ、子供は雑種となる。
通常、雑種となった子供はうまく卵や精子を作れず、子孫を残せない。
減数分裂の特徴である、『対合』が異種間の染色体ではできないのだ。
が、先に述べた理由で、雑種発生を行なっている生物ではうまく子孫を残すことができるのだ。
代々でお父さんが違っても、出来る卵は常に一緒なのだ。
自分の代では父親の遺伝子も使っているので、母親と子供とは半分だけクローンである。
なんとなくキカイダーを思い出してしまうのは、僕だけだろうか?
雑種発生.jpg

天然クローンは諸刃の剣と考えられていた。
環境が整っていれば爆発的に増えることが出来るが、環境変化や病気などへの抵抗性は皆同じなので、絶滅の可能性も秘めている。
が、調べてみると、天然クローンはわざとパーフェクトでは無いようにしているようだ。
『たまに父親の遺伝子も使っちゃう』とか、何かしらうまいことやりくりしているらしい。
また『地域によってクローン繁殖をしてる集団としてない集団を持つ』などの保険的戦略を取っているようだ。
今は全く違う分野の研究(魚だけど)をしているが、今思い返しても不思議な現象である。
自然って奥が深い…


今日の魚
ドジョウ(Misgurnus anguillicaudatus)
フナ(Carassius auratus)
キンギョ(Carassius auratus)
カダヤシの仲間(Poeciliopsis sp)


参考文献
AN INTRODUCTION TO UNISEXUAL VERTEBRATES,ROBERT M.DAWLEY(1989),Evolution and Ecology of Unisexual Vertebrates,Bulletin 466,New York State Museum,Albany,New York,USA 2次
魚のエピソード―魚類の多様性生物学 (尼岡邦夫 東海大学出版会)第1版 3次
魚のはなし (小島吉雄 技報堂出版) 5次


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posted by osakana at 22:02| 埼玉 ☔| Comment(0) | TrackBack(0) | 魚話 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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