前回までのあらすじ
チョウザメを買った僕は,サメと似た外見を適度にぬるく観察し,味音痴なりにがんばって料理してみたのであった…
唐突に更新を再開してみたら,土用の丑の日ネタだった『魚話その155』.
なんか総集編やらベスト盤でお茶を濁した気分だ.
あれ?最終回が近いのか?
…いや,単に実験やら行事やら業務が重なっただけで,更新ができなかったのが真相.
気分次第で更新しているだけでそんなことはないで、ごく一部の読者の方,ご安心を.
さて.
今回はもうちょい魚ネタっぽい話.
チョウザメを自分の携帯やPCで変換してみて欲しい.
僕のPCでは‘ちょうざめ’は‘’と‘蝶鮫’に変換される.
これ以外の漢字が当てられていることは珍しいのではなかろうか…
ところで,ちょいと前に,東京大学の臨海実験所に展示してあった古い魚の絵が,実は『衆鱗手鑑』という,現在行方不明になっているレア魚本であったというニュースが流れた[3].
実は僕も見たことがある.
ガラスケージに入っているそれを見て,『欲しいなぁ…』とは思ったことがあったが,まさか….
その衆鱗手鑑を鑑定した磯野直秀・慶応大学名誉教授の名前で検索したところ,魚譜等々に関する,様々な本草書籍に関する論文が出てきた.
その中の一報,『珍禽異獣奇魚の古記録』という,珍しい動物を見つけた報告書の総まとめ論文に,結構な頻度でチョウザメが登場することが判明.
確かに,江戸時代に描かれたチョウザメは怪物じみており,そんなイラストと共に報告を受けりゃ,そりゃ相当話題になるんじゃなぁなかろうか.

図1.異魚図賛に登場する『ざうぶか』(チョウザメ)

図2.異魚図賛に登場する『ざうぶか』(チョウザメ)2
そこでふと思い,自宅のお約束古書籍こと『倭漢三才圖會』『本草綱目』等々を調べてみると…何やらそれっぽい記述.
例えば,倭漢三才圖會の『フカ(サメの一種)』には
『背中に3列の甲状の骨がある(意訳)』
といったサメには見られない特徴に関する記述が見られる.
シノノメサカタザメのように表面がゴツゴツして細&厚身のエイを指している可能性もあるが,倭漢三才圖會のイラストを見る限りでは,普通のサメ型だ[11].
普通のサメはこんなに目立つ突起物はない.
しかし,鰓はきっちりと5列開いている(チョウザメは1列)ので,サメとチョウザメのハーフのような生物になっている.
一方,『シビ(マグロ)』のページには

『鮪もまたチョウザメの仲間で,鱗はなく,長い鼻,下向きの口,鎧甲のような頭,髭がある(意訳)』
という記述がみられる.
同様に,大和本草でも鮪がチョウザメを表すことを言及している[9].
さらに,倭漢三才圖會などの重要な引用文献である,中国の本草綱目の同じ文字にも,
『体長6〜10m,体は灰色で3列の甲状突起を持つ(意訳)』
とあり,やはりチョウザメの特徴を示している[7][8].
実は他にもカジトオシ(カジキ)等々いくつも見出したのだが,文章が長くなるので,省略.
ただし,それがチョウザメっぽいことは分かっても,各々の文字とチョウザメの種類を対応させるのは素人判断では厳しい.
そこで,魚の漢字に焦点を当てた文献をあたると,さらに細かな情報が.
前述の例では省略した漢字を含めてまとめると下記のようになる.
『魚話その128』や『魚話その129』同様,日中×新旧で文字の混用が見られるようだ.
ところで,本草綱目でチョウザメを調べていたら,
『龍門を遡り,龍となる(意訳)』
という一文を発見.
ん?
龍門とくればコイではなかったか?
というわけでざっと調べてみたところ,『三秦記』という中国の古書籍の前後でチョウザメからコイ変わったようだ[5].
確かにゴツゴツした外見・大型・強い水流をものともしない遊泳を見れば,伝説の竜への発想も容易に納得できる.

図5.栗氏魚譜に登場するチョウザメと思われる絵画
現在,数多の魚ネタウェブサイトがあるが,このブログを含め,大半は趣味的にただ垂れ流している感が強い.
ここはやはり,差別化を図り,気合いを入れた方が良いのだろうか…?
いや,やはり趣味の範囲で,たまにどこのサイトも紹介してないような情報を出す方が面白い…か.
このブログを再編集し,紙媒体化したいところだが,夢のまた夢….
今日の魚
ダウリアチョウザメ(Huso dauricus)
カラチョウザメ(Acipenser sinensis)
ハシナガチョウザメ(Psephurus gladius)
参考文献
[1]異魚図賛(国会図書館貴重書画像データベース)
[2]魚偏漢字の話(加納喜光,中央公論新社)
[3]失われた幕府献上魚図の発見
[4]図説魚と貝の事典(望月憲二 柏書房)
[5]珍禽異獣奇魚の古記録(磯野直秀 慶應義塾大学日吉年報)
[6]本朝食鑑(東洋文庫)
[7]本草綱目(国会図書館貴重書画像データベース)
[8]本草綱目・啓蒙(長野電波技術研究所蔵書)
[9]大和本草(中村学園蔵書)巻之十三 三十八頁
[10]栗氏魚譜(国会図書館貴重書画像データベース)
[11]倭漢三才圖會(長野電波技術研究所蔵書)



公私共々ご多忙なご様子ですね。
個人的にはここのネタはお金を払って読むレベル、ただで毎回読むのが申し訳ないと思っています。
こうしてネットで気軽にいろいろ拝読し情報を頂戴できるのは嬉しいです。又、ブログ利用者の爆発的増加と共に、個性的コンテンツが売り物だった個人サイトが減少した昨今、ここのような<職人技のサイト>は貴重な存在です。
魚とは全然関係ないんですが、カラスの研究者にこんな方がいらっしゃいます。
http://homepage3.nifty.com/shibalabo/crow/index.htm
日本でも有数のカラス研究家の間でも知名度の高い方ですが、この方もサイトコンテンツをとうとう本にされました。先週読んだところです^^
ご出版、いかがでしょう??私買いますよ〜。
出版は…何より文献引用の手続きが面倒で考えてないんですよね.
どうせなら引用したい図がたくさんあるんですが,それらの掲載を手続き・交渉してくれる人が名乗り出てくれると,もうちょい心は動くのですが…
現在は国会図書館の無償申請すら面倒で.
書類の郵送費のみなので大して金がかかるわけでもないんですが,メールで申請書のチェック→郵送で本番申請なぞという二度手間がなんとも…
商用絡みだとたぶんさらに…
ただ,いずれ数冊は自前で印刷して配ろうかと思っているんですけどね.
ウェブでは公開しきれない情報付で.