2011年12月10日

魚話その189 リアルタイムじゃないホネ取り(サメの頭部骨格標本)その0 〜予備情報〜

●軟骨標本作製に必要な情報など


過去に『リアルタイムホネ取り』と題し,魚の骨格標本作成法について紹介したことがある.
あれは硬骨魚類が対象で,基本的には四足動物と同様である.
今回は軟骨魚類の骨格標本作成法の様子.
何度も触れているように,軟骨魚類の骨は水分などの揮発性物質が多く,乾燥とともにひしゃげてしまう(図1).


sb18901.jpg
図1.乾燥に伴い歪んでしまったドチザメの顎(スケールバーは1cm) a)左前方,b)下顎腹側 下顎後端は通常ここまで反り返っていない


その歪みを改善したので,速報的に紹介したのが,『魚話その187』
ただし,現在も試行錯誤中の手法であり,また,一般家庭では夏場の高温多湿を乗り切れるのか不明なのが問題だ.
また,僕が個人入手できるサメは現状ではせいぜい全長1.5mが上限である.
使用する樹脂はそれほど頑強ではないので,大型のサメや華奢な構造物には強度が足りないかもしれない.
しかし,僕が軟骨用に簡略化アレンジしたことを除けば,考古学などではすでに当たり前の手法である.
僕自身は秘密にする気は無いので,皆が楽しめればよいなぁ…と思い公開しているのだが,注意点もある.
一つは特許との絡み(後述).
もう一つはホルマリンなどの薬品を使うので,ドラフトや廃液回収などの設備が整った少なくとも高校の実験室レベルの施設を想定していること.
したがって,該当しない人はただのブログとして読み飛ばして欲しい.
個人で試して事故が発生しても一切責任を取れない.
とりあえず今回は序章として,標本作製に必要な周辺情報をば.


・大まかな原理
キーとなるのはポリエチレングリコール(以下PEG)という水溶性の高分子.
水溶性で,乾燥するとカチカチになる.
また,溶解度が高く(図2),融点が60℃ちょいと低いのも特徴だ.
この物質を使った処理の概略が図3となる(フローは『魚話その187』の図1).


sb18902.jpg
図2.PEG 4000が溶ける様子 a)1リットルの60%(w/v)PEG溶液用に用意したPEG 4000の顆粒,b)水を加えて半日後,c)1日後


sb18903.jpg
図3.軟骨標本作製の概要 a)風乾,b)エタノール脱水(有機系樹脂への置換のに必須な前処理),c)PEG処理


・骨格の部位の名称
サメの骨格標本は水族館でも目にする機会が少ないせいか,骨格の名称が硬骨魚類ほど詳細に掲載されているサイトが見つからなかったので描いてみた(図4).


sb18904.jpg
図4.ドチザメの頭骨(左前方より) a)防歪処理済みの頭骨,b)各部位の名称(スケールバーは1cm)


いろいろ名称を書いたが,とりあえず覚えておいて欲しいのは吻軟骨,鼻殻と口唇軟骨.いずれも成功or失敗の指標となる,標本作製のキーパーツだ.


・特許との絡み
毎回書いているのは,僕が法律に疎いため.
『よろしい,ならば勉強だ』といきたいところだが,どこから手をつけてよいのかがまったく判らない.
高校や大学の部活動で学会や公的イベントで発表した際に一悶着あったとしても,『学校だから例外』として認められるのかが僕にはわからない.
なので,とりあえず僕が公開されている手法から解釈していることを書いてみたいと思う.
1.PEG処理の下準備に凍結乾燥する(染み込みやすくなる手法)
2.PEG溶液を減圧して浸透させる(染み込みが速くなる手法)
3.PEG処理した標本を凍結乾燥する(形を崩さないように速やかに乾燥させる手法)
4.乾燥したPEG処理済の標本を加熱処理する(染み込んだPEGを頑丈にする手法)
この1〜4をやるとNGになると僕は理解している.
創意工夫はとても大事だと思うのだけれど,特許になっている以上は十分気をつけて欲しい.
また,この手法自体は特許庁から短い和文で公開されているので,原文をぜひ読むべきだ.
僕の素人解釈を鵜呑みにして共倒れになる可能性は高い.


…長々と書いたが,次回から実際の作業紹介に移りたいと思う.


本日の魚
ドチザメ:Triakis scyllium Müller & Henle, 1839


参考文献
新魚類解剖図鑑 (木村清志,緑書房)第1版,P72
生物起源のものの標本作成法法(特開平10−287501)付属資料
posted by osakana at 00:42| 埼玉 ☔| Comment(0) | 魚話 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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