2008年01月13日

魚話その128 寿司屋の湯呑みに恋焦がれ その1

●ややこしい魚名の表記


さて、だいぶん期間が空いてしまったが、このブログが更新されないせいで命に関わるような危機が訪れる人はいないだろうから、何も心配せずに放置してみた。
もしかしたら何か命懸けの博打の対象になっていたかもしれない が、そんなのは知ったこっちゃないのだ。
で、新年一発目は去年のネタストックから。
本当はもうちょっと早くできたのだが、図を作るのがえれぇ面倒で、図なしにしてやろうかと思ったくらいである。

さて、ちょいと時は遡って2007年12月。
gooで『読めなかった魚へんの漢字ランキング』なる企画があった。
出題時にどんな項目があったのか分からないが、身近な魚に限ったことは間違いあるまい。
寿司屋や居酒屋に魚偏の漢字がびっしりと書かれた湯飲みがあったりするが、アレに近いのりだ。
そういえばたびたび登場している長野の教員Yは魚偏の漢字がやたらと得意だった記憶があるなぁ。
中国語の図鑑とか江戸時代の古書や図譜をぼへ〜っと見るのが好きな僕は、ふと『同じ字でありながら、日本語と中国語とで異なる魚種を示す例』があることを思い出した。
図1を見て欲しい。


日中のハゼ.jpg
図1.日中における『鯊』の意味の違い


gooの『読めなかった魚へんの漢字ランキング』で堂々の一位だった鯊という漢字である。
この字、日本語ではハゼだが、中国語だとサメを意味する(日本語横のカッコは中国語で書いたハゼ)。
日本語だとサメは鮫と書くが、中国語では違うのだ。
中国語には鮫という字があるのかというと、これがあるのだ。
では何を示すのか?
また全然関係ない魚種を表すのだろうか?
これには少々前置きが必要だ。
サメやエイは軟骨魚類と呼ばれているが、サメの仲間とエイの仲間をひっくるめたグループは正確には板鰓類(ばんさいるい) と呼ばれている。
軟骨魚類と呼ぶには、本来、板鰓類にギンザメの仲間(全頭類) が加わる。
で、鮫は全頭類(ギンザメの仲間)を示す。
ギンザメの仲間はサメやエイと同じような特徴を持ってはいるものの、外見がものすごく違うので、確かに字を分けたくなる気持ちは分かる。
文章で書いているとややこしいが、図にしてしまえば分かりやすくなる (図2)。


軟骨魚類の系統分類と中国語表記.jpg
図2.軟骨魚類の系統分類と中語語魚表記


エイは3種類あって、解釈がややこしいのだが、アカエイなどの薄っぺらい仲間が左上の表記、ガンギエイやシビレエイなどのちょっと厚みがある仲間が右上の表記、オニイトマキエイのような大型のエイの仲間が左下の表記で書か

れているような感がある。
もうちょっときちんと書くと、Rajiforme、TorpediniformesとPristiformesが右上の表記で、Myliobatiformesが左上の表記で示される種類である。
いずれにせよ、サメよりもエイは少々込み入っている感が強いので、ここら辺でやめてしまおう。

ちなみに中国で発売されている魚類図鑑の中にはサメを鮫と表記することもある。
中国内でも同じ字が異なる魚を示すことがあると聞いたことがあるので、その一例なのかもしれない。
僕がチェックした中でサメを鮫と表記していたのは台湾の魚図鑑だった。

意外と長くなってしまったので、今回はあと一ネタ。
鮭と書くとサケと読んでしまうが、実はこれも中国語ではフグを示す(図3)。


日中のサケ.jpg
図3.日中における『鮭』の意味の違い


後日紹介するが、中国語のフグという字は鮭以外にもいくつかある。
が、とにかく鮭という字は江戸時代の博物書である和漢三歳図会にも『鮭という字はフグを指すのであって、Cがサケである』と書かれている(図4の)。


和漢三歳図会の鮭.jpg
図4.和漢三歳図会に記されている『鮭』の補注


『圭と生を間違えるなよ』と江戸時代でも指摘されているところが面白い。
もちろんこちらも時代や場所によって変遷しているようで、中国語のwikipediaやその他書籍でも鮭がサケを示す例は結構載っている。
今回のネタもあくまで一例に過ぎず、基本的に流動的なものと考えた方が良いのだろう。

ふと思う。
たぶんないと思うのだけれど、中国に旅行して急にイクラが食べたくなった時に『我想吃…あれ、イクラって中国語でどう書くんだ?えーいサケの卵だから、鮭的卵かなぁ…よし、我想吃鮭的卵(私は鮭の卵を食べたいです)。』とかいうと、フグの卵を食べることになったりして…(苦笑)


今日の魚
ギンザメ(Chimaera phantasma)
アカエイ(Dasyatis akajei)
ガンギエイ(Dipturus kwangtungensis)
シビレエイ(Narke japonica)
オニイトマキエイ(Manta birostris)


参考文献
日本産魚名大辞典 (日本魚類学会編 三省堂)
和漢三歳図会 (寺島良安 長野電波技術研究所所蔵原本コピー※) 巻四十八第十三頁 
※web用の画像資料として、所蔵元である長野電波技術研究所の了承を得ています。
南海諸島海域魚類誌 (科学出版社)P1-25
Fishies of the world 4th edition
魚類専門辞典→ウェブサイト
日本語魚類専門辞典→ウェブサイト


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posted by osakana at 05:04| 埼玉 ☔| Comment(3) | TrackBack(1) | 魚話 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
ふぐの卵じゃなくて精巣だったら
美味しく頂けるんだけどなw
Posted by なかさん at 2008年01月14日 10:24
能登半島のほうでフグの卵巣を塩漬けにした珍味があるらしいのよ。
食べてみたいんだけど、なかなかいけなくてねぇ…(泣)

あ、ちなみに次のネタで鮭=フグについてはもうちょい補足しますんで。
Posted by osakana at 2008年01月16日 01:30
いやはや、いまさらでなんですが水産ハンドブックを読んでいたら中国では現在フグを食べることは禁止されているみたいですね。

どこか特区があってそこだけは大丈夫とかなんとか
Posted by 眠屋 at 2008年02月07日 00:12
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Tracked: 2008-02-04 09:04