2005年10月26日

魚話その41 SAKANA(ショウガmix)

●『イワナ』と『サカナ』


それは大学時代の友人Mの疑問から始まった。
岩魚(イワナ)のナ(魚)という読み方は、『さかな』が成立する前?後?(意訳)。

ふむ。
『魚話その32』でも紹介した『魚』という字だが、『ぎょ』『うお』『さかな』の他にも読み方がある。
例えば『な』『よ』などがそうだ。
渓流に棲むイワナという魚は『岩魚』と書くし、クジラのことを『勇魚(いさな)』と呼んだりする。
僕は個人的にイワナの方が好きなので、『岩魚』のルーツを探ることにした。

とりあえず最近のマイ・ブーム(死語)である語源探しで重宝している古語辞典のページをめくる。
高校生の頃は全く使わなかったこの本を今頃になって使うとは。

で。
『な』『うお』=魚として文献に登場するのは、手持ち資料では万葉集(奈良)が最古。

たらしひめ 神の尊の 魚(な)釣らすと (万葉集第5巻869)

一方、『さかな』=肴として文献に登場するのは、和漢三才図会第51巻の文献紹介には
『肴(コウ;さかな) 禮記注云肉帯骨曰肴骨剛故肴左居唐韻言非穀而食皆謂之肴』
訳すと
『礼記という(漢の時代の)書物の注には、骨の付いた肉を肴とある。骨は剛(かた)いので、肴は食べる人の左に置く、とある。唐韻という(唐時代の)書物には、穀以外の食べ物を全て肴という、とある』となる。
著者、寺島良安は
『漁師に「さかなをくれ」と言うと怒って分けてくれない。それはさかな(肴)は酒の席での些細なものを指すから、縁起担ぎをする漁師にとって失礼なのだ』と。
どうやら江戸時代でも『さかな』という言葉が完全に『魚』をさしていたわけではないようだ。
ちなみに魚という字に『さかな』という読み方が加えられたのは戦後である。

さて、こうなると気になってくるのがイワナの読み方。
『岩に隠れる魚』というニュアンスの語源をもち、それが短くなって『イワナ』となったようだ。
もしこれが戦後以降の呼び方だったら、『さかな』と同じことになってしまう…。
幸いなことに、都合の良い文献を探ることができた(猫額洞さんありがとうございました)。
それが倭訓栞(わくんのしおり)という江戸時代の辞書で、イワナの項目を紹介した書籍を発見したのである。

いはな  美濃の極山中に居魚也、いもほりともいふ、赤もつに似たり、大なる一尺
あまりに及ぶものあり…(以下略)

つまり江戸時代には『イワナ』という読み方はできていたということになり、『サカナ(=魚)』よりも『イワナ』の方が古いということになる。

ネタとしては重箱の隅をつつくような今回の魚話。
しかし、僕にとってはかなり勉強になったばかりでなく、ウェブ上でも資料が見当たらなかったので、同じようなことを考えて困っている方々の役に立てばいいと思いつつ…。
ちょっといろいろ用事が立て込んでいたということで、今回はこれで勘弁してくださいな。


今日の魚+α
イワナ(Salverinus leucomaenis)


参考文献
和漢三才図会 (寺島良安 ) 4次
新明解古語辞典 (金田一京助 三省堂) 
岩魚幻談 (湯川豊 朔風社) 5次
図説魚と貝の辞典 (望月賢二 柏書房) 4次


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posted by osakana at 05:52| 埼玉 ☁| Comment(0) | TrackBack(0) | 魚話 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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