2016年02月27日

魚話その205 おぴんぴん拡張〜締め付け篇〜

●強力ピンセットP-899をバイスにする

前回に続き改造ネタもう1つ.
“第3の手”という商品がある.
なんだか3本足のリカちゃんぽいけれど,鋳鉄の台座と逆作用ピンセットがボールジョイントで連結された保持用道具である.
逆作用ピンセットとはバネの力で普段は洗濯ばさみのように閉じており手を離すとパーツをつまみ続けてくれるので,ロウ付け時(高温のはんだ付け)のパーツ保持にとても便利なのである.
ツールクリッパーやサポートスタンドといった感じの名称で認識している人もいるかもしれないが,正式名称が分からないので,とりあえずここでは“第3の手”で統一する.
僕も数年前からホネの支柱作製で真鍮やステンレスのロウ付けを行なっており,“第3の手”を数個所有している.

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図1.a)“第3の手”,b)ロウ付けの様子(撮影用ヤラセ),c)ホネ用に作った支柱


さて.
以前から,マクロ撮影での被写体ブレや,直置きでは不安定な/壊れやすい角度で保持しつつの作業に難儀していた.
何かに立てかければブレ自体はなくなるのだけれど,角度を自由に変えられる小型保持台があればさらに快適に…と常々思っていた.
最初は三脚についている雲台のギミックを流用したスタンドも自作してみたけれど,量産性に乏しく扱えるサイズに限度もあったため,試作のみで終了した(図2).

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図2.a)自由雲台のギミックを使用した台座,b)2way雲台のギミックを使用した台座,c)使用例
実際の雲台同様に,レバーの捻りで締め付けが可能.





次に目を付けたのがフライフィッシング用のタイイングバイスで,細かい釣り針を掴んで角度調整もできるギミックに期待が高まったものの,欲しい性能のバイスは数万円するため,ちょっと手が出なかった.
コストを抑えたい理由は単純な懐事情のみならず,複数のバイスで複数のパーツをそれぞれ固定し,接着剤を流すといった作業がしたいためで,タイイングバイスの複数購入は完全に予算オーバーとなってしまうのだ.

“第3の手”を入手したのはタイイングバイスについて調べ始めたのとほぼ同時期で,角度調整の利くスタンドと撮影や作業は早々に結びついたのだけれど,付属の逆作用ピンセットは微妙な力加減が利かず,巧い解決策も思いつかないまま,長いことロウ付け専用となっていた.

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図3.ホネを支える“第3の手”
支えやすい形状・方向は特に問題ないのだけれど,作業によっては無理な角度で作業したかったり,潰れやすいホネを扱うことがあり,逆作用ピンセットではやや不都合



ところがある日,夕飯の準備中にP-899の穴がネジ加工用の下穴に使えるのではないかと突然思い付いてしまった.
焼き入れ済みのステンレス板に左右の位置合わせをしながら穴を開けるのは大変なのだけれど,元々穴が開いているのであれば話は別.
調理を中断し,忘れる前に加工.
そうしてネジによる強固かつ調節可能な把握力を併せ持つバイスが誕生したのであった.

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図4.加工の様子 a)HOZANのP-899,b)卓上ボール盤で穴開け,c)バリ取り,d)ネジ切り,e)完成

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図5.a)解放時(左)と締め込み時(右),b)ヒゲキホウボウ半身骨格,c)トビウオ頭部
ヒゲキホウボウはどの角度で直置きしても華奢な鰭が破損する恐れがあり,しかも摘まめる場所が狭いため,浮かせた状態で作業.
トビウオは脊椎に接着した針金を支えにして不安定な角度で作業.



その後いくつかの試作(図6)を経て,市販のステンレス製サムスクリューと組み合わせた現在の形状に落ち着いた.
模型用ピンセットもバイス化可能(図7)だが,強度に不安があるので,加工は大変でも個人的にはP-899がお勧めだ.

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図6.試作の様子 a)旋盤で締め込みネジを試作,b)装着時,c)試作品

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図7.a)HOZANのP-895をバイス化,b)Mr. TOOLS先細ストレート型をバイス化
P-895は強い締め込みは苦手っぽいが,小さいパーツの撮影や塗装の保持台には適.
Mr. TOOLSのピンセットは滑り止めを外すと開いている穴を加工.
板厚が薄くてネジ山がほとんどないので,寿命は微妙.



“第3の手”は1000円台で入手でき,工作環境さえあれば“改造P-899x第3の手”は4000円で作製できるので,タイイングバイスよりかなり安い.
ちなみに“第3の手”は大型台モデルの方が安定して好きなのだけれど,最近とんと見かけなくなってしまったのがとても残念である.

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図8.馬台タイプの“第3の手”の台座
一番左のモデルが重くて安定感もあるのだけれど,最近よく見るのは一番右の軽量モデル.



なお,ピンセット単体としても使えるので,個人的には結構気に入っている改造である.
ホネ取りに用いると,ネジ穴に詰まった肉の除去が若干面倒だが,大きめの歯間ブラシで対処可能だ.
ほとんど市販品の流用なので,改造としてはショボいのだけれど,自分用にアレンジしましたというお話.


本日の魚
イネゴチの一種:Cociella sp.
トビウオの一種:Cypselurus sp.
ヒゲキホウボウ:Satyrichthys amiscus (Jordan & Starks, 1904)
posted by osakana at 21:35| 千葉 ☀| Comment(0) | TrackBack(0) | 魚話 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2016年02月24日

魚話その204 おぴんぴん拡張〜先細り篇〜

●強力ピンセットP-899の先端を削り込む


魚のホネ取りをしている.
収納スペースの関係から,多くは全長40cm程度の魚を鮮魚店で入手し,胴体は食用,頭部はホネ用に分けている.
何年かやっているが,ホネに張り付いた皮剥がしは地味に大変で,未だに慣れない.
小さくて掴み辛いくせに,強固に張り付いた皮は,通常のピンセットで引っ張ると曲がってしまい,非常に剥がし辛いのである.
メスで削ったり薬品で溶かすのも良いのだけれど,ホネが傷つく恐れがあり,特に,ベラ科魚類のように厚い皮と薄い鰓蓋骨の組合せでは,ヘタすると穴が開いてしまう.
かといって皮を残すと干物感満載になるため,できるだけ処理したい.


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図1.a)ブダイ頭部,b)鰓蓋骨
鰓蓋骨は薄く透けて見えるが,皮は硬く通常のピンセットでは剥がせない



理想の摘み道具を求めて毛抜きやらラジオペンチやら試してみたのだけれど,強度不足だったりピンセットと持ち方が違ったり,どれもイマイチであった.


表.皮剥きに使用した器具の比較(主観に基づく)
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図2.骨抜き(左),毛抜き(右)


そんなある日,Hozan P-891と書かれた妙にゴツいピンセットを職場徘徊中に発見した.
生物系の(馴染みのある)実験操作では見かけないメーカーで,調べてみると工業系製品を取り扱うメーカーであった.
一般販売もされていたので早速Amazonでポチポチし,自宅にお出迎えしたのであった.

さて.
P-891は厚手のステンレス材でできており,通常のピンセットではご法度の『つまんで捻る』ができる.


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図3.a)P-891正面,b)P-891側面
比較用に一般的なサイズのK-3 GG(KFI製)を並べた.
正面から見ると通常のピンセットと同じ形状をしているが,板厚は通常のピンセットよりかなり厚い.



しかし,平滑な把握面ゆえに摘まんだ皮が滑ってしまうのがネックであり,先端を焼き鈍して有鉤化したりもしたものの,イマイチ使い勝手が悪い上に量産しづらいので,早々に断念.


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図4.有鉤化したP-891


ただ,強力ピンセットシリーズが皮剥きで無双するのは確信していたので,同シリーズでヤスリ目が付いたP-895とP-899を追加で購入してみた.
P-895は細身で魚の奥まで届くのだけれど,細身が災いしてちょっと厚めの皮を摘まむと先端がずれてしまい,P-891の代打にはならなかった.


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図5.a)P-895正面,b)P-895側面
※ネジ穴加工をしたため,P-895の穴が大きくなっている



一方,P-899はドラゴン殺しを彷彿とさせる凶悪な厚さで,安ものペンチじゃ勝てないんじゃないかとさえ思える把握力に,ホネ取り作業が一気に快適になったのであった.


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図6.a)P-899正面,b)P-899側面


ただ人間は贅沢なもので,P-899も気になる点が見えてきた.
鰓蓋のように開放的な場所では向かうところ敵なしであったが,ちょっと入り組んだ場所になるとピンセットが入らないのである.
加えて,力を入れて摘まむことが多く,角の部分が指に当たってあっという間にタコができてしまい,地味に痛い.
ただ,せっかく出会った理想の性能を持ったピンセットとサヨナラするのは非常に心苦しい.
『よろしいならば改造だ』と少佐の声が脳内にリフレインし,P-891にヤスリ目処理をするのは素人には無理そうなので,P-899を細身化を試すことにした.
使用時は頼もしく思えたその板厚に若干怯んだが,試しに鉄工ヤスリを当ててみると,少しずつ削れることがわかった.
グラインダーを使えば手軽に整形できるかもしれないが,作業時の過熱で硬度が変化するのも怖いので,チマチマと手作業することにした.


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図7.改造に用いたヤスリ
※写真には写っていないが,仕上げ用に紙やすりも使用した



左右の合わせ具合をチェックするため,養生テープでピンセットを閉じた状態で固定し,音楽を聴きながら削ること1時間.
調子に乗って削り過ぎると強力ピンセットとしての利点が消えるので,板厚はそのまま,側面のみを削りこみ,終了.



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図8.削ったP-899


なんだか歪な形だが,使い勝手は改善したような気がする.
まだ若干気になるところがあるのだけれど,実際に使ってみないと分からないので,ホネ取り作業を通じて微調整する予定だ.
失敗したときのことを考えると決して安い作業ではないけれど,自分用に改造していくのはとても楽しいね,という話.


本日の魚
ブダイ:Calotomus japonicus (Valenciennes, 1840)
posted by osakana at 22:57| 千葉 ☁| Comment(0) | TrackBack(0) | 魚話 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2016年01月18日

魚話その203 獺祭!獺祭!

●魚のホネ資料横断検索を作ってみた

※ウェブ配布の特性を活かし,ファイルを随時更新するつもりなので,むやみに二次配布しないでいただけると助かります.

前回のマダイ頭骨パーツ資料に引き続き,誰得資料の第2弾.
我が家には魚本部屋と名付けた部屋に,カタいのからヤワいのまで魚関係の資料を収納している.

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図1.魚本部屋(兼工作部屋)


酒のせいなのか有機溶剤で脳がやられてきたせいなのか分からないが,図は覚えているのだけれど,どの書籍のどの辺に載っているのかの記憶が最近怪しくなってきた.
そんなある日,横断目次を作れば脳の負担が軽くなるんじゃなかろうかと晩酌中に思い付いてしまった.
そもそもそんなことを思い付いた時点で判断力の衰えに気付くべきであったのだけれど,いざ作業を開始すると,想定外のトラブルのオンパレード…OCRミスの連発で大半が手打ちとなり,Excelでは希望のレイアウトで出力できないためInDesignでの編集となり,ページも200ページを超え,ヘタに格子模様が印刷されるものだから表裏の印刷ずれが目立ってしまい,奇数ページのみ0.5ミリずらしたファイルを作り直し…といった作業を2ヶ月ほど毎日明け方まで続けた結果,なんとかいきもにあ配布までこぎつけることができたのであった.


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図2.用いた文献(上)と6度目の編集作業(下)


さて.
そもそも自分用に作ったせいか相当癖のあるレイアウトになってしまったので,この資料の見方の説明など.
なお,説明文の数字は図3内の数字と色に合わせてある.

@魚名
同一種と判断した魚種の標準和名および学名を記載.
名称および学名は日本産魚類検索 第三版での呼称に合わせ,海外種・化石種はFishBasefossilworksを, シノニムについてはFishBaseWoRMSをそれぞれ用いて確認した.
種同定の確度は資料によりけりなので,「●●と書かれている魚」くらいに考えた方が無難.

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図3.全体の構成(クリックして拡大)


A掲載パーツ
目的のパーツをざっくり探す際に使用.
耳石を除き,魚の前後軸と大まかに合わせた順にしてある.

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図4.掲載パーツ欄の概略


B備考
Aで示したパーツの詳細・方向を記載.
また,パーツ欠損の情報やCで述べる図の種類の補足事項(電顕写真/透明骨格標本 等)についても記した.

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図5.備考欄の概略


C図種
該当パーツの図の種類を記載.
イラストと線画の判別は主観に基づく.

D文献(略記)
できるだけ元の文献タイトルと種類を想起しやすいよう,意味の分かりやすい略記にしたつもりだ.

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図6.図種,文献の概略


Eページ
該当図の掲載ページを記載.
基本的には数字のみであるが,一部表紙の図をリストアップしたものがあり,それらについては“表●●”と表記.
また,論文のように1ページから開始していない文献に関しては,文献内の記載に準拠した.

F Fig.
該当図の図番を記載.
文献内表記に準拠しており,章番号と図番をハイフンで結んだものと見分けがつかないので,連番の場合もカンマで区切るのみとした.
また,図番が表記されていない場合はハイフンのみとした.

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図7.ページ欄,Fig.欄の概略


G文献内呼称
該当図の文献内での呼称を記載.
文献内での探しやすさを考慮し,複数記載されている場合は和名を優先した.

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図8.文献内呼称欄の概略


誰得なのか全く分からないけれど,資料内の文献は,家庭でDL可能な論文を約50報と,書店で(頑張れば)自腹入手できる書籍50冊からなっており,それなりの量にはなっていると思う.
もし何かの役に立ちそうだったら,最下段でPDFをダウンロード可能(10MBくらいあるので注意)だが,紙媒体での使用のみを想定して作ったので,PDF版の使い勝手は不明だ.
なお,最近また魚のホネ文献(英文)を30報ほど新たに見つけたので,大阪のホネサミのようなイベントで増補・改定版を配布できたらいいなとなんとなく考えている.



下記内容についてご理解・ご了承いただけた方のみ,個人的にご利用ください
ダウンロード前の注意
・素人が趣味で作成した資料なので,鵜呑み厳禁です
・ウェブ配布の特性を活かし,ファイルを随時更新するつもりなので,二次配布/二次使用しないでください
・誤字チェック等全て個人で行ったため,リストに誤表記が残っている可能性は多分にあります
・このリストを見て書籍の購入をされる場合,自己責任にてお願いいたします
・万一リスト内のパーツが購入文献に載っていなくても,補償できません
・片っぱしから本棚のホネが掲載されている文献をリストアップしたので,“本資料に掲載=ホネ資料として使いやすい”とは限りません


↓↓魚のホネ資料横断検索のダウンロード↓↓

posted by osakana at 21:05| 千葉 ☀| Comment(0) | TrackBack(0) | 魚話 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2016年01月05日

魚話その202 マダイ天獄〜頭編〜

●マダイ頭部骨格の検索チャートを作ってみた

マダイの頭部骨格の検索チャート ver. 2できました

Ver. 2の変更点
・フローの見直しと修正(かなり)
・誤植の修正(ちょっと)
・イラストの描き直し(ちょっと)
・分岐点の文章レイアウトの変更



僕が初めて魚のホネ取りをしたのはタチウオの頭骨で,大学進学直前の1999年3月のこと.
次がホウボウの頭骨で,2002年に下宿の台所.
どちらも黒歴史レベルの惨敗だったので,実によく覚えている.
2004年にこのブログを始め,魚ネタの一環でホネ写真の必要に迫られて渋々ホネを取り始め,蟲まかせから手作業へシフト,現在に至る.

さて.
ホネ取りと言えば全身もしくは頭骨をターゲットにする人が多いのではなかろうか.
その生物の特徴を備えつつ収納の場所を取らないことから,頭骨に絞ったホネ取りをする人も少なくない.
ところが,魚の頭骨はパーツ間の結合が緩いため,約100パーツに分かれ※,なかなか面倒くさそうなのが実情だ.
※神経頭蓋のような合体モノや種差,結合の強弱もあるので個数は前後する

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図1.マダイ頭部(左側)のパーツとリスト


そこで鮮魚店で入手が容易なマダイの頭部に焦点を当て,検索図鑑で多用されるフローチャート形式で頭部パーツを追いかけられるような図を作ってみた.

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図2.マダイ頭部骨格の検索チャート(ファイルのDLは最下段)


もちろん生息環境や年齢,パーツの分離具合や破損,さらには僕の画力や形状の認識(棒状or板状等)の影響により,実物と合致しない可能性は十分にある.
各産地のマダイ頭部を20尾ほど購入しホネの確認をしたものの十分とは言えないので,そこらへんはまだ試作版だから…と割り切って欲しい.

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図3.イラストの元になったマダイのホネ


本当はA3出力のつもりだったのだけれど,旅モノでも紹介したように,いきもにあの無料配布資料として準備することにしたため,持ち帰りが容易なようA4に変更した.
ただし,フォントサイズを確保しないと見辛いので,うんうん唸りつつ文言を練った.
一般家庭のプリンターでは数%縮小されてしまうけれど,コンビニとかでA3に拡大コピーするなりして各自で対処してほしい.
ちなみにフローチャートは見やすいようノンスケール,反対面に名称リストとおおよそのサイズ感が掴めるような見取り図(図1)を描いた.
いきもにあ会場で,見取り図を見ながら見本用のバラバラのマダイ頭骨を全部並べてくれたお客さんもいたので,たぶんなんとかなると信じたい.

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図4.お客さんが並べたマダイのホネ


なお,マダイのホネはとても丈夫で取りやすいのだけれど,非常に脂が多く変色しやすいため,有機溶剤を用いた脱脂が必要である.
現状では他の方法が思い付かないため,一般家庭で綺麗なホネを残すには結構危険な作業が伴う.
そんな事情もあり,ここでは『アラ煮や塩焼きで見つけたこのパーツはなんじゃろな?』というシチュエーションのみに絞り,長期保管を見越したホネ取りノウハウは割愛した.
授業や実習で使えるほどのクオリティはないので,なにかの呑み会や鍋パあたりの余興にでも使ってもらえれば幸いである.

今後の更新予定としては
・誤植の訂正
・パーツの左右の見分け方
・組立図(プラモデル風)の作成
・個体差を加味した情報への差し替え
あたりを考えている.

特に組立図に関しては既にヒラメで作製しており(図5),マダイのパーツのイラストも既に描いてあるので,あとはやる気さんとの勝負だ.
いつかは全身版へ拡張したいが,それはまた,別のお話.

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図5.ヒラメ頭部骨格の組立図(プラモデル風)


とにかくまだ試作段階なので,なにか感想や誤植があればこっそり(優しく)教えてくださいませ.

下記内容についてご理解・ご了承いただけた方のみ,個人的にご利用ください
ダウンロード前の注意
・素人が趣味で作成した資料なので,鵜呑み厳禁です
・ウェブ配布の特性を活かし,ファイルを随時更新するつもりなので,二次配布/二次使用しないでください
・作製は全て個人で行ったため,誤表記が残っている可能性は多分にあります
・万一トラブルが発生しても,補償できません
・個体差は多々あるので,これが正解というわけではありません



↓↓マダイ頭部骨格の分類チャート(Ver. 2)↓↓



↓↓マダイ頭部骨格の分類チャート(旧版)↓↓


本日の魚
マダイ:Pagrus major (Temminck et Schlegel, 1844)

参考文献
魚類学実験テキスト(岸本 浩和 他,東海大学出版会)
加温熱固定法による「骨」の摘出と確認(マダイ)(東京海洋大学・羽曽部先生のwebサイト)
posted by osakana at 19:35| 千葉 ☀| Comment(0) | TrackBack(0) | 魚話 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2015年01月01日

魚話その201 紅白鮫合戦

●アカシュモクザメとシロシュモクザメの頭骨は結構違うっぽい


気付けばもう(これを書いているのは)大晦日.
ホネサミ2014では,詰め込み過ぎてイマイチな展示をしてしまったばかりか,誤同定したまま展示するという失態を犯してしまった.
そんなわけで,今回はその辺りをば.

最初に言い訳をさせてもらうと,日本産魚類検索第3版ではアカシュモクザメとシロシュモクザメは頭頂部の凹凸具合で区別されている.

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図1.アカシュモクザメとシロシュモクザメの一番有名な見分け方


これは英名にも反映されており,先端が凹むアカシュモクザメはScalloped hammerhead,凹まないシロシュモクザメはSmooth hammerheadと呼ばれている.
実際には背鰭基部の長さの比でも確認できるようなのだが,まあ水族館や漁港に転がっているシュモクザメを見ても,なんとなく分かる.

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図2.a)葛西臨海水族園のアカシュモクザメ,b)友人から貰ったシロシュモクザメ


さて.
ホネサミに向けて防歪処理をしたシュモクザメ頭骨を展示するため,沖縄のS君より譲って貰ったロリ個体を捌こうとしたところ,何か様子が違う.
頭部の凹みは見当たらず,シロシュモクザメのように見えるのだが,背鰭基部の比率がアカシュモクザメっぽい.

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図3.S君から貰ったロリ個体のシュモクザメ.
体色の関係で凹んでいるように見えるが,その外側に白い周縁があり,指でなぞると頭部の凹み()が不明瞭.



決め手に欠けたが,頭部の凹みを優先してシロとし,ホネサミに出展したのであった.

ところが,サメ好きの知人に見せたところ,どうも頭骨の形状がアカっぽいと言う.
片方は比較用に歪ませてしまったし,そもそも成長に伴う変形かと思っていた.
少し気になったので調べたところ,シュモクザメ科の頭部について研究した文献を見つけ,シュモクザメ科の頭骨を系統と重ねた図から,アカとシロで二つの差異を見出すことができた.
第一に吻軟骨の孔の大小/有無(),第二に鼻殻の突起の尖り具合()が異なる(図4b).

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図4.a)シュモクザメ頭骨の名称,b)アカシュモクザメとシロシュモクザメの頭骨
サメのホネ界隈で用いられているであろう日本語訳が見当たらなかったので,そのまま表記した.※1IOL: distal lobe of preorbital process,※2FPP: distal wing of fused preorbital and postorbital processes



この情報を基に改めて手持ちのロリ個体を見ると,シロではなくアカである可能性が非常に高くなった(図5).

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図5.a)シロシュモクザメの頭骨,b)アカ/シロ不明だったロリ個体の頭骨


成長による変形は確認していないし,できれば複数個体を扱った上での情報としたいのだが,シュモクザメの頭骨が主題の文献でも孔の大小が描き分けられているので,恐らく大丈夫だろう.
日本産魚類検索は種同定で非常に重宝するのだけれど,僕のように分類経験が乏しい者が使うと,『極めて凹む/あまり凹まない』といった程度で分類する形質は,断定しづらいことがある.
両者を同時に並べ,自分の中で一度比較できれば分かるのだけれど,一般陣として入手できる魚の種類には限りがあるので,片方しか入手できないことも多々ある.
今回はシュモクザメという,比較的分かりやすい特徴を持った種のはずだったのだが,まんまと引っかかってしまった(悔しい).
今後は迷ったら,頭骨を取ってみようかなと思う次第である.

余談だが,図4aに示したように,シュモクザメをシュモクたらしめているパーツは鼻殻と呼ばれ,鼻のパーツとなる.
それだけでも結構不思議生物なのだが,よく見ると鼻の穴が他のサメのように正中線近くではなく,眼の側にある(図6).
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図6.アカシュモクザメの鼻の位置 a)生体,b)骨格

かなり変わった場所にあるので,シュモクザメのイラストを描く時に注意して欲しい.

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図7.a)シュモクザメで間違いがちな鼻の位置,b)一般的なサメ・エイの鼻の位置


そういえば,ファインディング・ニモのシュモクザメことアンカー,鼻の位置がちょっと気になる.
いや,そういう野暮なことを言ったらつまんなくなっちゃうから,追求しないけれどね.
おや…?
誰か来たようだ….


本日の魚
アカシュモクザメ:Sphyrna lewini (Griffith & Smith, 1834)
シロシュモクザメ:Sphyrna zygaena (Linnaeus, 1758)


参考文献
日本産魚類検索 (中坊徹次 編,東海大学出版会)第3版
Mara, K., R. (2010) Evolution of the Hammerhead Cephalofoil: Shape Change, Space Utilization, and Feeding Biomechanics in Hammerhead Sharks (Sphyrnidae). University of South Florida(恐らく学位論文)
三重県水産研究所 おさかな雑録
posted by osakana at 02:55| 千葉 ☀| Comment(0) | TrackBack(0) | 魚話 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2014年07月04日

魚話その200 osakanaさんは心配性

●取扱注意なホネ取り用の薬品


本記事は骨格標本作製時の事故防止を目的としており,有害物質製造の幇助のつもりは一切ありません.
また,悪用目的で検索されそうなキーワードを避けるため,具体的な物質名が一部掲載されていない場合がありますが,ご了承ください.
僕も素人なので作業に伴うトラブルは一切取れません.
自己責任でお願いします



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晩酌のコップが結露する季節だ.
卓上の水滴を見て,“無色透明の一滴のこぼれた液体が,失明に繋がる(魚話その176)” という一文を思い出した.


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図1.無色透明の液体 a)滴下直後,b)傾けて放置
原液の場合,アセトンはさっさと蒸発,グリセリンは粘性が高くて垂れない.
とは言うものの,濃度によっては他の溶液と見た目では区別できない.
家族や同居人は判断できないと思った方が良い.



そんな経緯もあり,我が家の標本呑み会で薬品取扱い等の勉強会(?)もやってみた.

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図2.いつもの呑み会Power Pointを使った勉強会


今回はホネ取りに絞り,『化学や法律に疎い僕が,事故防止のために注意している点(解決策ではない)』を紹介したい.
化学的な原理等,書いていないその項目は大量にあるけれど,必要だと思ったら各自で積極的に調べて欲しい.

注)名前が異なる複数の製品があったりするので,ここに対象薬品を掲載し,以降は省略した(字数節約).
毎回含まれていると思って欲しい.

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1.単品での注意が必要な物質

文字が多いので,最初にまとめの表を載せて,後から補足.


表1.単品での注意を要するホネ取り薬品等の例
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・市販のパイプ洗浄剤および家庭用漂白剤(塩素系,酸素系ともに)
組合せにより有毒ガス等が発生する危険性(後述)もある.
また,時間経過で濃度が変動することがある.
例)塩素系漂白剤の場合,半年で次亜塩素酸の濃度が約半分になる [1].

・過酸化水素水
爆発性や人体への影響が強く,劇薬だ(普通は10倍希釈して使用)[2, 3].
徐々に分解されてガスが出るため,原液の容器にもガス抜きの穴が開いている.
使用後の溶液をペットボトル等の密閉容器で保管すると,破裂するので危険.


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図3.a)手に付着した状態,b)35%過酸化水素水の容器の蓋にあるガス抜き穴,c)使用済オキシドールを容器に詰めて半日後
0.1mlもついてないのに,手に付着すると数分でヒリヒリ(苦笑).
対処法はSDS(後述)で各自調べましょう.
オキシドールは過酸化水素水に換算すると,わずか10分の1の濃度.
にもかかわらず,半日でこんなに膨張.
絶対に密閉容器に入れない.



・有機溶剤(アセトンやベンジン)
健康被害に加え,気化・引火しやすいため,要換気&火気厳禁[4,5].
衣服の静電気でも引火・爆発することがあるようなので,冬場は特に注意.

・固定液(ホルマリン)
シックハウス症候群で有名になったホルムアルデヒド,この水溶液がホルマリンであり,有毒[6].
液浸標本や透明標本を作製している人は要注意.

・魚由来の物質
フグ等,釣り場で簡単に入手できる有毒種がいる.
特にテトロドトキシンやシガトキシン等,一般の加熱調理では無毒化できない魚毒もある.
アイゴやゴンズイ等,毒の棘を持つ魚種にも注意が必要だ.
また,熱湯で除肉する人も,野外で拾った腐りかけの魚を扱う際には蒸気の吸引に注意.


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図4.有毒魚の一例 a)オオカマス,b)ソウシハギ
毒魚=フグの印象かもしれないが,有毒魚は他にもいる.
地域限定の場合もあるが,触らぬ神に祟りなし,手を出さない方が賢明だ.



2.混ざると危険な物質


表2.混合に注意を要するホネ取り薬品等の例
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過酸化水素+アセトン[4]
失明・指が吹っ飛ぶレベルの深刻な爆発事故の恐れあり.
実際にはもう1ステップ必要だが,万一に備え,絶対にこれらの接触の接触を避ける.
特に漂白時の過酸化水素水がホネに残留する可能性があるので,最初に脱脂,十分乾燥・揮発した後に漂白を行う.

過酸化水素+特定の金属[2, 3]
鉄や銅,銀等があると急激に分解が進み,ガスが大量に出るため,これらの材質の密閉容器に入れた場合,爆発する恐れがある.

塩素系漂白剤+アセトン[7, 8]
トリハロメタンの1種(超有害)が発生し,摂取・吸引する危険性がある.
また,エタノールでも同様の反応の危険性がある.

塩素系漂白剤+酸性の物質[1, 9]
塩素ガス(有毒)が発生し,非常に危険.
また,次亜塩素酸と過酸化水素を混ぜても酸素しか発生しないようだが,不純物まみれで濃度不明なホネ取り作業では避けるべきだろう(ハイターを用いた硬骨魚類のホネ取り論文でも塩素ガスの注意喚起をしている[10]).


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図4.pHによる次亜塩素酸の挙動(資料9より引用・一部変更)
洗濯/台所用品として販売されている塩素系漂白剤は塩基性に調整されている.弱酸性にて殺菌力が強くなるが,誤操作で塩素ガスが発生するリスクも高まるので,絶対にやらない.



・塩素系漂白剤+特定の金属[11]
アルミや鉄等の容器は腐蝕されるので,容器には不向き.
過酸化水素水でも触れたが,容器の材質は要吟味.

・臭気止めトラップでの混合
下水側からの臭気が上るのを防ぐための,水道管パーツ.
トラップはただの水溜まりなので,ここで薬品が混ざってガスが発生する危険性がある.
流し台等で作業する時も要注意だ.


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図5.臭気トラップの例
実際には様々な型があると思うけれど,とりあえず代表的な形状を.
とにかく水が溜まっている部分が鬼門.



3.事故防止に向けて
化学系の人から見たら『この程度で起きないって』とか言われる可能性もある(その逆も).
ただ,ネットで情報を得た人が,どんな解釈・条件下で作業するか分からないし,洗浄剤・漂白剤のような混合液で,しかも肉や脂等の不純物が溶け込んだ状態では何が起きるかわからない.
ブログで全体公開する以上,安全側にシフトさせて書いている.


表3.安全策および想定される事故の例
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・生活空間と分ける
新鮮な魚でも,調理とホネ取りの器具の共用は避ける.
また,拾った魚の死骸や薬品の保管も誤食や揮発性物質による食品汚染のリスクがあるので,専用に冷蔵/冷凍庫を用意する.

・保護具の着用
実験用の試薬は当然として,『一般入手できる家庭用品だから安全でしょ?』という先入観も捨てる.
実際かなり強烈な薬品はあるし,使用目的がメーカーの想定外なので,ほぼ確実に使用者の責任だ.
保護メガネや解剖手袋の着用等,安全に配慮した格好で作業する.
特にコンタクトレンズは跳ねた薬品によって眼球とレンズが貼り付く危険性もあるので,より注意が必要だ.
その際,保護具の耐薬性も調べておくこと[11].

・換気の徹底
有機溶剤等の有毒ガス対策としての換気は当然として,鮮度が悪い魚を扱う際も要換気.

・すすぎの徹底
魚体やホネに残留した薬品のことは見落としがちだ.
魚のサイズや残肉量が異なるので一概には言えないが,僕の場合15cm程度の魚ならば流水で15〜30分,30cm程度だと何度も水を新しいものに替えながら数時間〜半日はすすいでいる.
それ以上のサイズはバラしてしまうので,パーツのサイズによりけり.

・容器の吟味
長期保管なのか,一晩使うだけなのかで違うけれど,薬品と相性の悪い組合せは把握しておくこと.
様々な樹脂の耐薬性をまとめたサイトもあるので,参考に[11].

・SDS(Safety Data Sheet:安全データシート)による事前チェック[12, 13]
要は薬品の取扱説明書(日本語版あり)で,『薬品名+SDS』で検索すれば簡単に入手できる.
既に所有している薬品は当然として,購入検討中の薬品も要チェック.
ハイター等の台所用品はSDSがないこともあるが,成分表の化学物質をSDSでチェック.
メーカー側もトラブル防止のため,『このSDSを読み,全項目を理解するまで薬品を使用しない』と書いている.
また,同じ薬品でも複数のメーカーから販売されていることがあり,濃度や添加物が異なる場合もあるので,購入したメーカーのSDSを確認する.


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図6.SDS掲載項目の例
赤字は掲載が必須,黒字は必要に応じてメーカーが書き足せる項目.
メーカーによって微妙に表記が異なるかもしれないが,基本的に一緒.
というか,海外のSDSも似たような体裁になっている.



※かつてはMSDS(Material Safety Data Sheet:化学物質等安全データシート)と呼ばれていたが,2012年にMSDSからSDSへ名称が変更された.
生物系出身なのでSDSって別の試薬でなじみ深いから,紛らわしい…

・薬品の処理
自治体によってルールが異なる.
有料で業者回収が引き取ってくれる場合もあるので,各自SDSを読みつつ,薬品購入前に自分が住む自治体の担当者に問い合わせよう.
廃液処理の目途がつかないのなら,ホネ取りしない.

以上ダラダラと書き連ねたが,少年漫画で『これで最後だと思うなよ!』とザコ敵が吐く台詞と同様,いくらでも薬品事故のネタは出てくる.
とりあえず,『このブログに書いてないから安全だと思った』ではなく『いろいろ危ないことがあるみたいだから,自分でもっと調べよっと』と考えてもらえれば幸いである.


魚話もようやく200話かつ10周年.
実はSeesaaブログは2代目のブログで,MSNスペース(サービス終了)で2004年に書き連ねた駄文を移植した.
正確な日時は覚えていないが,たしか大学院に入った後の蒸し暑い時期だったので,この際7月スタートにしてしまおう.
この10年で大学院を卒業し,就職したりしたのだけれど,やっていることはあまり変わっていないような気がする.
今後ともゆるくお付き合いくださいませ.


本日の魚
アイゴ Siganus fuscescens (Houttuyn,1782)
オオカマス Sphyraena putnamae Jordan & Seale, 1905
ゴンズイ Plotosus japonicus Yoshino and Kishimoto, 2008
ソウシハギ Aluterus scriptus (Osbeck, 1765)


参考資料
[1] 製品Q&A 次亜塩素酸ナトリウムについて(高杉製薬株式会社)→リンク
[2] 過酸化水素水のSDS(昭和化学株式会社)→リンク
[3] 過酸化水素水のSDS(宇部MC過酸化水素株式会社)→リンク
[4] 平成22年度 化学物質取扱者のための安全衛生講習会(筑波大学 配付資料)→リンク
[5]アセトンのSDS(三協化学株式会社)→リンク
[6] ホルムアルデヒドのSDS(昭和化学株式会社)→リンク
[7] Wikipedia(ハロホルム反応)→リンク
[8] 山崎昶先生が答える 化学質問箱 第38回(化学同人)→リンク
[9] 次亜塩素酸ナトリウムの殺菌力とpHの関係(株式会社クレオ)→リンク
[10] 骨魚類の骨格標本作製法(佐々木 彰央,岡 有作)海・人・自然(東海大博研報),2010,10,51-57
[11] 耐油性・耐溶剤性・耐薬品性(共和ゴム株式会社)→リンク
[12] SDS制度(経済産業省資料)→リンク
[13] 化管法におけるMSDS制度の概要(環境省資料)→リンク
posted by osakana at 13:14| 千葉 ☔| Comment(0) | TrackBack(0) | 魚話 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2014年03月22日

魚話その199 地名水族館

●日本には魚の地名がいくつあるのか?


つい先日の話.
出張で京急線に乗っていたところ,鮫洲駅なる駅を通過した.
ボ〜っと外を見ていると,今度は鮫浜小学校なる学校が.


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図1.鮫洲駅の切符


今から10年ほど前,東北へ出張した時にも『鮫』なる名前の駅を発見し,たものの,時間がなくて行けなかったことを思い出した.
そうだ,今回は国内に散らばる魚の地名をピックアップすることにしよっと.

さて,地名を調べるにあたり,日本郵便のウェブサイトから郵便番号データをダウンロードし, 12万超のデータから『魚』が付く地名を黙々と探すことにした(暇人).
検索した文字は図1の通り.


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図2.検索した『さかな』の漢字一覧
スペース的な問題で,魚的に意味が通じそうな読みに絞って掲載.


本当は『釣』や『網』といった関連国も調べたかったのだけれど,別の意味を指す可能性も高く,今回は魚が含まれる漢字に限定した.
鯨や漁など,魚以外の生物や,魚にちなんだ事象まで含まれているが,漢字の中に『魚』がいるということで.
世の中皮肉なもので,データ検索の終了直前に『7桁郵便番号検索サービス』なる素敵な地名検索サイトを発見してしまい,念のため2回目の探索を行った(暇人).
見つかった魚種は図2に示すようにかなり多く,比較的ありそうな『鮎』や『魚』のみならず,鱸(スズキ)や鰍(カジカ)など,想像以上にバリエーションに富んでいた.


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図3.検索の結果ヒットした『魚』の割合


さて,集計結果.
どう集計したものか迷った結果,最も生データに近い状態である郵便番号でとりあえず集計してみると,新潟,富山,福井の北陸3県が断トツに多いことが分かった.
魚沼や魚津,鯖江など一度は耳にしたことがある地名の郵便番号が異様に多いためで,全体の半分近くを占めているのだ(図4).


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図4.郵便番号に占める県別の『魚』数(クリックで拡大)
カッコ内の数値は,『魚』の郵便番号数を示す


ただし,郵便番号は同一市町村であっても大字等が異なるために複数カウントしてしまうことがある.
そこで今度は地名の中に含まれる魚の漢字をピックアップし,『魚』種の多様性を評価してみた(北陸の牙城を崩せるかもしれないし…).


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図5.地名に占める県別の『魚』種数(クリックで拡大)
カッコ内の数値は,市町村,町大字中の各『魚』数を示す(重複を除く).


郵便番号カウントでは出てこなかった愛知県や青森県,宮城県などが浮かび上がってくるのが興味深い.
全国的に見ても,太平洋側で,アジやサメ,カジカなど『魚』種のバラエティーに富む傾向にある.
郵便番号の日本海,多様性の太平洋でしためでたしめでたし…と綺麗に終わるかと思いきや,新潟県は,『魚』種数も8種類とトップで,郵便番号数,多様性ともに『魚』にちなんだ土地柄として王座に君臨していることが分かった.
ちなみに,駅名も探したものの,約1万ある駅のうち,魚が含まれる駅は23で,これまた新潟が上位に食い込んでいた(図5).


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図6.駅名に占める県別の『魚』種数(クリックで拡大)
カッコ内の数値は,駅名中の各『魚』数を示す.


さて冒頭の鮫州,現在は住所としては既に廃止されてしまったようである.
代わりに地名の由来を調べるため鮫洲駅近辺を散策したところ,打ち上げられたサメの腹から木像が出てきたためという説を鮫洲八幡神社で発見した.
他にも諸説あるようだが,ここでは割愛.


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図7.鮫洲八幡神社


なぜ急にこんなことを書いたかというと,たった一ヶ所でもこのような由来があり,このブログではとても紹介しきれないため(決して手抜きではない).

漁獲量や年間消費量など,様々な『魚の本場』を示すデータはあるが,たまにはこんな変わりフィルターで覗いてみるのも面白いかもしれない.


参考文献
日本郵便…郵便番号データ(csv形式)の提供
7桁郵便番号検索サービス…魚の付く地名を検索
ジョルダン 乗換案内・時刻表・運行情報サービス…魚の付く駅名を検索
Wikipedia…駅名と路線のチェックに使用
鮫洲八幡神社横の公園の掲示板…鮫洲の語源の解説
角川漢和中辞典


生データをアップロードしておいたので,興味のある人は見てくださいな.
急いで集計したので,数え間違いはごめんなさい…
sb199配布用.pdf
posted by osakana at 02:34| 千葉 ☀| Comment(8) | TrackBack(0) | 魚話 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2014年01月28日

魚話その198 中の人

●大学構内で見かける人々

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大学教授はどのようなイメージなのだろうか?
白衣を着た白髪の爺さんが,終夜実験している光景だろうか?
周囲の人と話をしていると,そうでもないらしい.
ついでに大学構成員を観察した結果,結構多様なことが分かったので,すごく簡単に書いてみたいと思う.
学生時代の記憶に基づくので,最新/詳細情報まではご勘弁.

・一般の人
学生についてきた親戚や友人など様々だ.
構内が一般開放され,ジモティー(死語ですな)の散歩コースになっていることもある.
散歩中の老人だと思ったら,馴染みのない研究室の教授だったりすることもあるのが怖いところ.

・民間企業の人
警備員,薬品や機器の販売や修理に携わる人,学内コンビニの店員など,探すと結構多い.

・共同研究の人
大学内で研究しているのだけれど,本籍は別の大学や機関にある人.
今風の言葉で言ったら,コラボしてる人.
研究は,必要に応じて外部に出向することもあるのだ.

・職員
事務系と技術系に大別される.
事務系は,いわゆる事務室の人達で,経理・書類手続きなどでお世話になるはず.
技術系は実験や研究に関わる人達で,学生〜教員とともにあれこれ実験や管理を行ったりしている.

・学生
僕(理学部)の話をすると,最初の4年間がいわゆる『大学』で,『大学生』または『学部生』と呼ぶ.
進学すると『大学院』となり,学生は『大学院生』または『院生』と呼ばれる.
大学院は『修士課程もしくは博士前期課程(2年間)』と『博士課程もしくは博士後期課程(3年間)』に分かれ,各課程での審査をパスすると修士号や博士号を取得できる.
分野の制限はなく,例えば理学部から水産学部の大学院に進学して博士号を取れば博士(水産学)となる※1.
ただし,医学の博士号と医師免許は別物なので,医学部以外の学生が医学博士号を取得しても,開業できるわけではない.

・ポスドク
博士号取得後の,いわゆる武者修行時代に相当する.
博士号取得すぐに教員になることは難しく,何年かポスドク時代を送る人が多い.
学生〜ポスドクの辺りの話題は書き出したらキリがない.
『ハカセといふ生物』という漫画(連載ブログで閲覧可能)がイメージを掴みやすいので,お勧めだ.
実際には作中には出てこないダークな部分がきっとあったり,分野固有ネタもあるのだろうけれど,生物の実験系ラボであれば,『こんなエピソードありそう…』と感じることが多いと思う.

・教員
かつては助手,講師,助教授,教授と分かれていたのだが,助手,助教,講師,准教授,教授に名称が変わった※2.
さて冒頭に出てきた教授であるが,会議や授業が非常に多い印象がある.
学生視線で『実験の相談をしたいのに,また会議なのか…』程度の理解ではあるのだけれど,『教授を探して実験室で発見』というパターンは案外少なかったし,爆発して髪の毛がチリチリ…というのも見たことがない.
また,他者の論文の査読や書籍の執筆・監修,学会の運営等を受け持つことも多く,様々なデスクワークに時間を取られている印象が強い.
ついでなので,小学校に入学してから教授になるまでのフローを図にしてみた(図1).


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図1.教授になるまでのフロー
途中で退職する人や,全然異なる業界から教員になる人など,例外は多々あるが,とりあえず理系の場合,多くはこんな感じではないだろうか?


このように,一見多様性が少なそうな大学の中にも様々な人がいる.
もちろん他のギョーカイでも同じことが言えるはずだ.
シラス干しを食べながら,そんなことを思ったのであった(やっと魚).

※1.●●博士という表記も聞いたことがあるかもしれないが,1991年の学位規則改正で博士(●●)という表記に変更になったようだ(下に掲載).
※2.こちらは学校教育法の改正で2007年に表記が変更されたようだ.
詳しくは,Wikipediaの解説を参照(下に掲載)して欲しい.


参考文献
研究者マンガ「ハカセといふ生物」→リンク
Wikipediaの『博士(●●)』に関する記載→リンク
Wikipediaの教員名に関する記載→リンク
posted by osakana at 01:33| 千葉 ☀| Comment(0) | TrackBack(0) | 魚話 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2013年10月01日

魚話その197 ポセイドンK

●論文の『孫引き』の意味について考える


何気なく使用している言葉の意味が,本来とは異なる場合がある.
『破天荒』や『姑息』といった言葉が取り上げられた記事を読んだことがあるかもしれない.
定義に厳しい学術系用語は一意的に用いられている…と思いきや,身近なところに例外があった.
それが『孫引き』という言葉.


まずは学術文書について.
研究成果は,論文などの学術文書で公開する.
多くの自然科学系論文は『要旨』『背景』『手法』『結果』『考察』『引用文献』に分かれ,読み手が分かりやすいよう,各項目の初めに『考察』などのように明示される(図1).


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図1.論文の構成の一例 
a. 題名(title)…論文の題名. b. 著者(authors)…論文内の研究に関わった人が出てくる.順番も大事で,一番関わった人が最初. c. 要旨(abstract)…論文の概要.無料公開していることが多い. d. 背景…(introduction)理解に必要な先行研究や原理を紹介. e. 手法…(materials and methods)再現性を高めるため,シンプルかつ正確さが求められる. f. 結果…(results)実際のデータが掲載される項目.データ解釈を行わず,記載がメイン. g. 表(table)…タイトルと説明文は表の上に,補足文は下に書く. h. 図(figure/fig.)…表と異なり,タイトルも説明文も図の下に書く. i. 考察(discussion)…データの解釈を行う項目. j. 謝辞(acknowledgements)…実験操作やサンプル提供,英文校閲を手伝ってくれた人などお世話になった人,使用した研究予算を紹介する. k. 引用文献(references)…本文中で引用した文献の詳細情報のリスト.


英語論文の場合,専門用語を除けば,恐らく高校英語の教科書に載る文学作品よりも読みやすい.
他文献と情報が重複する場合は引用による紹介で文章を単純化し,より相手に伝わりやすいよう工夫されている.
例えば,『●●に関する処理は××(2005)の手法を用いた』『■■に関しては▼▼(1999)が述べているように…』といった表現を用いる.
そういった××(2005)や▼▼(1999)のタイトルがリスト化されているのが『引用文献』という項目だ.

さて,冒頭の『孫引き』.
論文や専門書を読んでいると,本文中で引用された文献の情報が気になってくることがある.
引用される情報は文献の一部であるから,その他の部分が気になるのだ.
派生した興味で,もしくは,より自分に関連性が高そうな情報を得るために,最初に調べていた文献の『引用文献』のリストから文献を見つけ出し,さらにその文献の『引用文献』のリストから文献を見つけ出し…といった行為を『孫引き』と呼ぶ人(僕も含む)がいるのだが,どうも本来はそういう意味ではないようだ(図2a).


広辞苑によると『他の書物に引用されたものを,原点にさかのぼって調べることなく,そのまま引用すること』という,どちらかといえば,いや,かなりネガティブな意味だ(図2b).
ひょっとしたら文系の専門用語かと思い,手持ちの科学論文執筆の指南書を漁ったが,やはりネガティブな意味であった.


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図2.『孫引き』二様 a)僕が認識していた用法,b)辞書に掲載されていた本来の用法


従って,より多くの原著文献を積極的に探すというポジティブな意味で
『いやぁ,関連情報が多くて,昨夜は孫引き・ひ孫引きしまくりで疲れましたよ…』
と言ったつもりなのに,
『情報が多いから,巧いこと要約してある文献を丸写しするのに疲れましたよ』
というニュアンスで伝わりかねない.

基本的に(本来の意味での)孫引きは避けるべきとされるが,入手困難な古い文献等で,例外的に使うこともある.
引用の形式が何にせよ,調べ物をして報告する場合には,出典の表記や,引用部分の明示は大事だ.

知っている人には当たり前のことなのかもしれないが,周囲に訊いた限りでは,僕を含め年齢・出身ラボ関係なしに『原著を遡る』という意味で使用している人が多かった.
『この作品のDNAが第二作にも引き継がれ…』というように,本来とは異なる慣用的な表現が広まっているのだろう.
時代とともに言葉の方法は変化するし,実際こちらの意図するところで伝わってしまうので,誤用とすべきかわからない.
しかし,『孫引き』はどちらの意味も同じ分野の人が使用する用語ゆえ,アンジャッシュの勘違いネタ漫才のように,互いの認識がずれたまま話が進んでしまう可能性もあるかも,と酒を呑みながら思った.


参考文献
広辞苑 DVD-ROM版(新村 出,岩波書店)第6版
集英社国語辞典 (森岡 健二 他,集英社)第1版
これからレポート・卒論を書く若者のために(酒井 聡樹,共立出版)第1版,P143-145
一流の科学者が書く英語論文(Ann M. Korner 他,東京電機大学出版局)第1版,P72
フィールドの観察から論文を書く方法―観察事例の報告から研究論文まで(濱尾 章二,文一総合出版)第1版,P176-177
タグ:孫引き
posted by osakana at 00:50| 埼玉 ☔| Comment(0) | TrackBack(0) | 魚話 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2013年06月14日

魚話その196 でぃーふぉーしー〜Demands on Developing Digital Devices and Contents〜

●電子版の図鑑を妄想する


去年の話.
沖縄出張のため羽田空港を徘徊していたら,巡回スタッフがタブレットPCを持ち歩いているのを見かけた.
口頭のみで伝えられるよりもわかりやすいし,巡回スタッフの身体的な負担も減りそうだ.
自宅でもいともたやすくえげつないほどにダラけてネットができるので学会のポスター発表で話す際にも,質問者に合わせて補足データを見せることができるので,僕の中で便利グッズとして定着した.
その一方で,10インチのiPadをプライベートで外に持ち出すことは減りつつある.
吞み会などで写真を見せるために使うと,若干『準備してきました』と思われそうな気がしてしまうのと,常備するには結構重いのだ.
対して小型モデルやスマホでは,画面が小さいので見せづらい.


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図1.画面サイズの違い ガラケー(左),iPod touch(スマホサイズ;中),iPad(右)
いずれもretinaディスプレイを搭載しており,画像や文字の品質に不満は無いのだが,携帯性と見せやすさの両立が難しい.


折りたたみに出もしない限り,見せるデバイスと電話としての機能の両立は難しそうなので,現状では会う人から判断して使い分けるしかないだろう.


タブレットで思い出した.
日本産魚類検索の第3版(全2400ページ)が出た際に,電子化したら楽かな…と思い,2部購入して自炊してみた.


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図2.日本産魚類検索第3版
第2版から800ページ増え,2400ページに.2部重ねると,厚みが500mlのペットボトルの高さを超える.


確かに市場や野外の調べ物や,枕元で眺める際には重宝している.
ところが,持ち出し頻度は増えたものの,電子化の旨みを思ったより感じない.
僕が電子化で想定しているのは,携帯性,スペースの確保,テキスト検索による書籍のデータベース化,それと電気を消した寝床で読めることなのだが,魚類検索でテキスト検索を使うことはあまりない.
また,一般書籍と異なり『次は10ページ後に飛んで…』といったことはザラなので,ラボ等で腰を据えて使用する場合には書籍の方が使いやすいのだ.


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図3.ページが飛ぶ書籍(クリックして拡大) a) 検索図鑑,b) 道路地図
著作権のナニがアレなので,概念図を描いてみた.どちらも印刷サイズに合わせて膨大な情報を掲載するため,次の項目が掲載されているページ番号が書かれている.魚類検索図鑑は持っていなくとも,道路地図は見たことがあるのではなかろうか?


ハイパーリンクを使い,ワンクリックで次の該当ページへ直接飛ばせるようにしたものの,間隔が詰まるスマホサイズではページ送り機能と誤認されることが多い.
せっかく印刷サイズから解放されるのだし,ページめくりではなく,科ごとに一枚の画面にまとめ,スワイプ操作で辿っていけると使いやすい気がする(再レイアウトはとても大変だと思うけれど).
書籍版の道路地図と,Googleマップみたいな感じ.


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図4.電子版魚類検索図鑑の妄想その1 発散型の検索マップ(クリックすると画面いっぱいに拡大)
スワイプで辿れるようにしてみた.スタートから様々な方向に辿っていくので,種数が多いと円形になりそう.なお,著作権のナニがアレなので,掲載魚は実在しない妄想魚.


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図5.電子版魚類検索図鑑の妄想その2 扇型の検索マップ(クリックすると画面いっぱいに拡大)
発散型と似ているけれど,検索方向は左から右のみとなる.末広がりになってしまうので,種数が多いと難しいかもしれない.


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図6.検索マップ(扇形)をiPadに入れてみたところ(クリックして拡大)
イメージ画像を作成してみた.全体像における現在地は右下のナビゲータウィンドウで把握でき,STARTボタンを押すとSTARTの位置に戻れる.


第4版が『書籍プラス1万円で電子版付き』となったら僕は多分買う…と思う.
普段から読んでいれば覚えるでしょ,と突っ込まれそうだが,人それぞれということで.

図鑑といえば,インターネットをうまく活用した例を2点紹介したい.
一つはネイチャーおおさかが運営している『チリメンモンスターWEBインタラクティブ図鑑』.
Wikipediaのように閲覧者もアップロードできる点(専門家のフォローも入るらしい),そして,自分が調べるために撮影した写真をアップロードし,図鑑内の写真と同じディスプレイ上で比較できるようになっている点が面白い.

もう一点は『虫判定器』と『植物判定器』というスマホ用アプリで,写真を撮ってアプリ経由で送信すると,同定してくれる.
どういう仕組みで判別しているのか不明だし,精度に関する感想はまちまちだが,とても巧い使い方だと思う.
また,公開当初よりもレスが遅くなっているようなので,知名度アップとともにいろいろ負荷が増えたのだろう.
精度等,前述の課題が解決したら,ぜひとも魚版も出してほしい.

いろいろと妄想してきたが,すぐに出るようなものでもないので,当面は自分の観察眼を鍛えるしかないんだろうなぁ…などとぼんやり考えている.


参考文献
日本産魚類検索 (中坊徹次 編,東海大学出版会)第3版
チリメンモンスターWEBインタラクティブ図鑑→Webサイト
虫判定器→Webサイト
※ 植物判定器はアプリ購入サイトしかないので,各自で検索してください
posted by osakana at 20:22| 埼玉 ☔| Comment(0) | TrackBack(0) | 魚話 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2013年06月06日

魚話その195 ぎょろりむしゅうせい

●水族館で魚を撮影する


先週の土曜深夜の話.
酔いどれ頭で水族館のサイトを見ていたところ,葛西臨海水族園でジャノメコオリウオとトビウオの一種の稚魚が公開されているという告知を見つけた.
いずれの魚も生体を見るのは初めてである.

梅雨入り宣言が出たというのに,雨が降る気配もないので,さっそく水族園へ無修正ロリ写真を取りに行くことにした.
もっともロリはロリでも,ふえぇ…とか言わない稚魚写真だけれど.

さて.
今回は告知で見つけた2種に加え,スマとハガツオの稚魚もいた.
こういうサプライズがあるから,デジカメのメモリーカードは余裕を持って行きたい.


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図1.ジャノメコオリウオ a) 成魚, b) 稚魚(背面), c) 稚魚(左側面) 2013年5月21日に孵化.サイズは約5 cm,2尾いた(他にもいたかもしれない)

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図2.ハマトビウオの稚魚 a) 飼育スペース, b) 飼育エリアの様子, c) 餌を食べる様子 サイズは約3 cm,水に落ちた虫にしか見えないが,よく見るとトビウオの面影はある.このサイズで水面をピョルピョルとジャンプしていた.

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図3.スマとハガツオの稚魚 a) 飼育スペース, b) 飼育エリアの様子, c) 稚魚のアップ 稚魚の混泳水槽なので,僕に魚種の判別は不可能.サイズは約3 mm,薄暗い水槽の中で機敏に泳ぐ稚魚を写すために,ボツ写真の量産(400枚くらい).手持ちの明るいマクロレンズはオートフォーカスも手ブレ補正もついて無いので,本当に難しかった…


水族館は飼育している魚の展示を行っているのみならず,資料の保管や研究,学習資料の提供も行っている.
企画展でテーマを絞った魚の展示や,生態展示,ワークショップなどもその一例だ.
一度行ったことがある水族館でも,時期によって変わったりするので,公式ウェブサイトをチェックするのはアリだと思う.
かつて水族館非公式ガイドという,全国の水族館のイベントなどの情報を網羅的に掲載しているサイトがあったのだが,残念ながら閉鎖してしまった.
今考えてもあのサイトは凄かったと思う.

そうだ.
水族館撮影に関して以前書き損ねたことの補足もしておこう.

・オートフォーカス補助光
薄暗い場所などでコントラストが低下すると,オートフォーカス(AF)がうまく作動しないことがある.
そこで,AF作動時のみライトをつけてピントを合わせやすくする機能がある.
AF補助光という機能で,シャッターを半押しした時に出てくる光がそうだ.
これが結構クセモノで,魚に当たると嫌がって逃げることが多い.
フラッシュ撮影禁止を守っている人でも,AF補助光をオフにしていない人は結構多い.
『ちょうどピントが合いそうだったのに,レンズの前で反転してしまったよ…』という場合は,少し設定を見直してみるといいかもしれない.
慣れが必要だけれど,マニュアルフォーカス(MF)という機能で対処可能だ.


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図4.AF補助光 a) AF補助光が動作している様子(赤矢印), b) AF補助光で照らされた様子(白矢印,カメラとの距離は約30 cm) モデルはPower shot G10(Canon)


・壁の厚み
大型水槽にかかる水圧は非常に大きいため,水族館では分厚いアクリルなどを使っている.
これが結構クセモノで,斜めから撮影すると,写真がボヤボヤになりやすい.
空気/壁/水で屈折率が異なるため発生し,どこにもピントが合わない手ぶれ写真のようになる.
『水槽写真は正面から撮る』という鉄則はやはり大事で,魚に合わせて姿勢を変えるなどの労力を惜しまないのが大事だ.


sb19505.jpg
図5.壁の厚みの影響 a) 斜め上から撮影, b) 正面から撮影 斜めから撮影すると,全体的にボヤボヤした写真になったり,矢印のように流れたような写真になったりする


・空気を読む
混雑している時に撮影しやすい場所を独占していると,他の来館者に反感を買う可能性が高い.
初公開の珍魚や,入口付近の水槽でなければ,人の途切れ目は結構できる.
通路の端で気長に待つ/再度行列に並び直すくらいの気持ちで考えるのが大事だ.

そういえば以前ブログで公開した動画を,テレビ放送で使いたいという旨のメールがスペインから届いた.
ルールに則って撮影・公開しているとはいえ,無断でテレビ放映するわけにもいかないので,水族館の担当者に事情を説明し,承諾を得ることができた.
メディアに画像を提供したことは何度かあったが,今回のような例は初めてだったので,良い勉強になった.
著作権には気をつけませう.


本日の魚
ジャノメコオリウオ Chionodraco rastrospinosus DeWitt & Hureau, 1979
スマ Euthynnus affinis (Cantor, 1849)
ハガツオ Sarda orientalis (Temminck et Schlegel,1844)
ハマトビウオ Cypselurus pinnatibarbatus japonicus (Franz, 1910)
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2013年05月31日

魚話その194 わ,臭ぇフリーザー

●骨格標本用の魚の冷凍保管を考える

2013年も気付けば梅雨入り,気温も湿度も上がってきた.
我が家には用途別に複数の冷凍庫が存在する.


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図1.我が家の冷凍庫
左側にあるタイプが食材用で,冷凍スペースは86L,右側は非食材用で,121Lある.
HDDと同じで,余裕を持って買っても,知らぬ間に足りなくなっているのが怖い.


快適な梅雨ライフのためには,熱源を居住空間からできるだけ遠ざけることが重要だ.
今回はその片付けの様子…ではなく,標本の冷凍について触れてみたい.

新鮮なうちにホネ取りができない場合,保存は重要課題である.
中にはエタノールやホルマリン、はてはグリセリン保存液を作製して液浸標本にする人もいるかもしれないが,高コスト(エタノール),DNAの断片化(ホルマリン),変成してカチカチの筋肉を除肉する手間を考えると,冷凍が最有力候補となる.
しかし,冷凍庫は除霜機能が備わっているため内部は乾燥し,いわゆる『冷凍焼け』が起きる(図2).


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図2.冷凍焼けした尾鰭(オジサン)
干物のように乾燥してしまった.冷凍庫も使い方を誤ると痛い目に遭う.干されたオジサンという響きが三十路を迎えた僕には切ない・・・
スケールは1cm.


食品・冷凍関係の資料を見る限り,冷凍焼けは脱水に伴う不可逆的なタンパク・脂肪の変性現象とある.
こちらはホネ取りが主なので多少ならば問題ないが,ヒレや吻などの焼けが進むと除肉が厄介になる.
可能な限り標本をコンディション良く保存しておきたい博物館にとっても重要な問題で,鹿児島大学総合研究博物館発行の『魚類標本の作製と管理マニュアル』には,海水魚なら塩水,淡水魚なら真水とともに冷凍すると,冷凍焼けを軽減可能とある.
ただし,種同定が完了し,骨格標本作製を残すのみであれば,特に水の種類にはこだわらない.
むしろ取りかけのホネを凍結する際にも水を入れるのを忘れないようにするのが大事だ.
水ごと凍らせると中身が分からなくなるので,ビニール表面への表記のみでなく,魚と一緒にラベルを凍らせておくと安心だ.


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図3.冷凍保存の様子
一応水とともに凍らせてあるのだけれど・・・
適当に詰め込むと一部が空気と触れてしまうこともあるので,保管時はビニールの空気抜きも念入りに.


冷凍庫の関係で少しでも小さく保管したい気持ちは痛いほど分かるのだけれど,水は十分量使いたい.
適切な処置が施されたか否かは,目の白濁等にも表れ,スーパーで魚の鮮度を見分ける時と注目する場所が似ているのが面白い.
また,スペースのみならず,冷凍庫の増加と共に部屋が温暖化していくので,死体の保管方法なんかより家族の理解を得る方が大変だったりする.

衛生面にも注意したい.
家庭用の冷凍庫は,『半永久的に保管ができる』ではなく『腐敗は冷蔵より遅い』程度に考えておくほうが良さげだ.
設定温度の関係もあるが,先述の除霜,扉の開閉,使用済み氷枕など(冷凍庫にとって)高温の物体を冷凍庫に入れるなどで,一時的にその周辺は暖かくなるのだ.
冷凍庫内の温度変化に関してはいろいろデータが公開されているので,一度探してみると良いと思う.
機種による違いはあれど,想像以上に温度が変化していることに驚くと思う.


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図4.専用冷凍庫
縦型タイプは整理しやすい利点を持つが,1ドアタイプは開放時に冷気が漏れやすいので長時間作業の祭には注意が必要


最後に.
他の動物と異なり,魚は『食材感』が強く,つい食品と同居させても大丈夫と思いがちだけれど,外で拾ってきた鮮度の悪い魚や一度でも薬品を投入した魚は,絶対に冷凍庫を分けた方が良い.
『二つも冷凍庫?そんなカネもスペースも無いって…』と言われそうだが,不特定多数の目に触れる場所では,こう書かざるを得ない.
試しに肉や魚を保存しているスペースにタオルを入れておけば,臭いの移りっぷりで物質の行き来を実感できるのではなかろうか.
自分の不備によって身内の入院沙汰なども起こりうることを覚悟した上で,ホネ取りに手を出した方が良いと思う.


本日の魚
オジサン Parupeneus multifasciatus Quoy & Gaimard, 1825

参考資料
魚類標本の作製と管理マニュアル (本村浩之 編, 鹿児島大学総合研究博物館) P9 - 12
扉の開け閉めによる庫内温度の上昇(エヌケイエス株式会社http://www.validation-wa-nks.jp実験データNo.43)
扉の開け閉めによる保管物の温度変化(エヌケイエス株式会社 実験データNo.45)
霜取り運転時のフリーザーの温度変化(エヌケイエス株式会社 実験データNo.69)
おいしさを科学する 冷温(ニッスイアカデミーhttp://www.nissui.co.jp/academy/taste/09/03.html
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2013年05月25日

魚話その193 リアルタイムじゃないホネ取り〜その3〜

注意!
・解剖の描写があるので,ご注意ください.
・本文中に『一般入手できる』というニュアンスの記述がありますが,一般家庭での作業を推奨する意味ではありません.
・高校や大学の生物系サークルなど,大型専門機器の購入が困難ではあるものの,しかるべき施設と知識を持った人が対象です.
・ホルマリンを扱うので,その取り扱い方法/処理方法が確立している方々を対象としております.
・ポリエチレングリコールとエチレングリコールは別物です(危険度も).
・現在も試行錯誤中の手法であることにご留意ください.
・最初のうちは入手が容易な種の,特に顎(頑丈かつ歪みやすいなので)を使って試されることをお勧めします.
・本件での事故や貴重なサンプルの損傷は一切責任を取れません.



今回で軟骨標本シリーズは最終回.
ホルマリン抜きしたホネをポリエチレングリコール(以降PEGとする)溶液に浸す.
PEGは化粧品等にも用いられているが,軟骨から残留ホルマリン等が溶出する可能性は多分に考えられるので,必ず手袋+ピンセットで作業し,生活空間とは分けた場所で作業する.

10%PEG-200
→20%PEG-200
→30%PEG-200
→30%PEG-400
→30%PEG-600
→20%PEG-4000
→30%PEG-4000
→50%PEG-4000
→70%PEG-4000
→90%PEG-4000
→95%PEG-4000

このような順番で,1種類の溶液につき,1週間〜1ヶ月ほど浸す.

sb19301.jpg
図1.PEG含浸処理 a) 常温処理時の樹脂製容器, b) 高温処理時のステンレス製容器, c) 鰭の保定
容器の耐熱性次第では,兼ねることも可能だが,いずれの処理もジップロック等の耐熱性バッグに入れ,揮発性物質の拡散を防いだ方が良い.
他の人が使用する際にコンタミの原因となりかねない.
また,熱膨張に伴う破損の恐れがあるため,高温処理時は容器の蓋を密閉せず,耐熱バッグを数枚重ねてコンタミを防止する.
鰭は園芸店で入手できる鉢底ネットでサンドし,釣り糸で固定すると,含浸処理中に他の標本に当たって変形するのを軽減できる.


より良い溶液の置換パターンもありそうだが,これは現在も模索中だ.
一つ一つに時間がかかるので,あれこれ試しても結果が出るまで時間(とカネ)がかかってしまう.
ちなみに脳室内に空気が残っていると,一部がずっと空気中に露出されている状態になる.
吻軟骨などは特にに影響を受けやすく,乾燥でひしゃげてしまい,どういうわけかPEG溶液に浸す工程を最初からやり直しても直らない.

なお,70%を超えたあたりから,70〜80度ほどの加温が必要になるため,研究で使用する加温装置(インキュベーター)は必須だ.
比較的安い部類の研究用機器なので,大抵の実験室にはあると思う.
代用案もあるのだけれど,一般家庭で事故が起きても嫌なので,『インキュベーター必須』という表現で止めておく.
なお,以前IHクッキングヒーターの使用を書いたが,手法の更新に伴い,より長時間の処理が好ましいことが判明したので,IHクッキングヒーターは使えない
95%PEG-4000まで置換が済んだら,溶液から取り出し,余分な液をできるだけ回収(数回は再利用可能)する.


sb19302.jpg
図2.PEG溶液の除去 a) 背腹方向のPEG溶液を除去, b) 骨格の窪みのPEG溶液を除去
脳室内や脊椎骨等の内側に溜まったPEG溶液を念入りに除去する.
表面は最後の仕上げ前に拭きとることが可能.


sb19303.jpg
図3.再利用が進んだPEG溶液(左)と未使用のPEG溶液(右)
次第に雑菌が繁殖し,黄色味を帯びてくる.
数回使用したら交換するか,低濃度溶液として再利用する.


鉢底ネットを敷いたタッパーに入れ,実験室の冷凍庫で30分ほど冷やす.
なお,何が揮発するかわからないので,食品用に使っている冷凍庫では絶対にやらないこと.


sb19304.jpg
図4.冷却処理
常温ではペースト状の濃度のPEG溶液が染み込んでいるはずなので,冷凍庫が使用できない場合は自然乾燥でも構わない.
流動性を少しでも早く落とすことで,少しでも多くのPEGが軟骨内に残るかな…と,作業の効率化半分,おまじない半分でおこなっている.
※必ず容器に入れてから冷凍庫に入れてください!(見やすいようにわざと剥き出しでやってます).

表面が白いクリーム状になったら冷凍庫から取り出し,余計なPEGをスパチュラでこそぎ落とし,水に浸した後に硬く絞ったキムワイプ等で表面を拭く.
表面のペタペタがなくなったら,風通しの良い場所で1週間ほど風乾し,完成.


sb19305.jpg
図5.冷却後のPEG除去 a) 拭き取り前, b) 拭き取り後
一連の流れを考えれば頭骨での作業を載せた方が好ましいが,鉢底ネットの凹凸痕が残って見やすいので,ここでは鰭をチョイスした.


sb19306.jpg
図6.ドチザメの頭骨標本
ひしゃげているのは,前述の通り,一部がずっと空気中に露出してしまったためと思われる.


他にもいろいろ試してみたところ,対象となる魚種の除肉法の除去技術の向上,漂白工程検討など,含浸処理以外にも課題が見つかった.
今後はその辺の改善も図りたい.


sb19307.jpg
図7.a) フトツノザメ頭骨(左側面), b) フトツノザメ頭骨(正面), c) ネコザメ頭骨(左前側面), d) ネコザメ頭骨(正面), e) ギンザメ頭骨(左側面), f) ギンザメ頭骨(正面), g) ヘラチョウザメ頭骨(左側面), h) ヘラチョウザメ頭骨(正面), i) ホテイウオ頭骨(左側面), j) ホテイウオ頭骨(正面)
ギンザメの頭部先端は,前述のドチザメ同様,空気中に露出したまま放置してしまった結果で,ホントはシャキっとしている.
撮り直したい頭骨もあるのだけれど,人にプレゼントしてしまったものもあるので.
カメラやレンズのメンテナンスは定期的におこないませう.


保管は温度・湿度共に低い場所に静置する.
通年エアコンが効いている場所…といきたいところだが,せめて気密性の高い容器+シリカゲルくらいはしておこう.
夏場や梅雨時などの高温多湿な時期にはPEGが染み出てきて表面がペタペタになることもあるので,何か敷いておくと良い.


いろいろな〆切り系がひと段落し,職場をふらついていたら,ある人に『魚のホネ好き学生が来たので,話してほしい』と呼ばれた.
そもそも僕の趣味をなぜ知っているのかが謎なのだけれど,それはさておき,現場に向かう.
会話が進むうちに,どうもその学生はこのブログを知っているらしいということが発覚.
その話の発端が,この軟骨標本の話題であり,更新を再開するきっかけになった次第.
それにしても世の中狭い.

追伸
九州の某大学の魚のホネ好き学生君よ,君の名を訊きそこなったので,もしこれを読んでたら連絡くれい.


本日の魚
ギンザメ:Chimaera phantasma Jordan and Snyder, 1900
ドチザメ:Triakis scyllium Müller & Henle, 1839
ネコザメ:Heterodontus japonicus Maclay & Macleay, 1884
フトツノザメ:Squalus mitsukurii Jordan & Snyder, 1903
ヘラチョウザメ:Polyodon spathula (Walbaum in Artedi, 1792)
ホテイウオ:Aptocyclus ventricosus (Pallas, 1769)

参考文献
遺物の保存と調査(沢田 正昭,クバプロ)
posted by osakana at 14:44| 埼玉 ☔| Comment(0) | TrackBack(0) | 魚話 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2013年05月22日

魚話その192 リアルタイムじゃないホネ取り(サメの頭部骨格標本)〜その2〜

注意!
・解剖の描写があるので,ご注意ください.
・本文中に『一般入手できる』というニュアンスの記述がありますが,一般家庭での作業を推奨する意味ではありません.
・高校や大学の生物系サークルなど,大型専門機器の購入が困難ではあるものの,しかるべき施設と知識を持った人が対象です.
・ホルマリンを扱うので,その取り扱い方法・処理方法が確立している方々を対象としております.
・ポリエチレングリコールとエチレングリコールは別物です(危険度も).
・現在も試行錯誤中の手法であることにご留意ください.
・最初のうちは入手が容易な種の,特に顎(頑丈かつ歪みやすいなので)を使って試されることをお勧めします.
・本件での事故や貴重なサンプルの損傷は一切責任を取れません.


ちょっと前に流行った表現を使うなら,久しぶりすぎるブログ…?

最後のネタ更新から10ヶ月,軟骨標本ネタなら,前作の魚話その190から17ヶ月も経過している.
その間何をしていたかといえば,本業と,学生時代/本業関連の論文やら本の原稿やらを黙々と書いていた.
余裕がなかったかといえばそうでもなかったのだが,PC作業は執筆に限定していたので,更新が停滞した次第.
なお,一般向けの和文書ではないし,身元バレは避けたいので,出版物の告知はしない.

さて.
固定が完了したら,水道水ですすぐ.
人の口に触れることが絶対に無いよう,換気の良い薬品専用の流し台で洗浄すること.
廃棄のことを考慮し,容器とペーパータオルも一緒に洗浄してしまおう.
ホルマリンも1次,2次洗液(容器や標本の最初と2度目のすすぎ水)も,きちんと廃液として回収しよう.
絶対に下水に廃棄しないこと(廃液処理に関しては,住んでいる自治体に事前問い合わせ).


sb19201.jpg
図1.洗浄の様子 容器を洗う際に1,2回目は少なめ(半分くらい)の水ですすぐと,廃液の量を減らすことができる.洗いの手抜きではなく,表面に付いたホルマリンと時間経過と共にホネから染み出してくるホルマリンの洗浄方法を分けているのだ.


次に,多めの水に浸して一晩放置し,浸した水も一応廃液容器に回収.
これを3回ほど繰り返す.
ホルマリン臭が抜けていることを確認したら,5回ほど水ですすぐ(一晩待つ必要はない).
人間の鼻では気付かない残留ホルマリンを考慮し,洗浄済み頭骨も必ず食品用とは別の容器や冷蔵/冷凍庫などに入れること.
金銭的負担を考えても,活発に発表しているような化学系部活クラスの施設が前提だ.


固定前には見落としていた細かな肉の凹凸が,ホルマリン固定により硬度が増して判別しやすくなる(図2).


sb19202.jpg
図2.ホルマリン固定により見やすくなった除肉時の残り(顎間接部分) 本当はもっとトゥルンとしている.


場所に応じてスパチュラ(調色スティック)や歯ブラシなどで除去すると,仕上がりが綺麗になる.
凝ればきりがないのだが,仕上げの見栄えを考えると,脳函天蓋(頭骨背側の脳が収まっている部分:図3a)や舌弓周辺(図3c)は丁寧に仕上げておきたい.


sb19203.jpg
図3.きっちり仕上げておきたい部位 a)脳函天蓋(右側面から撮影),b)舌弓周辺


なお,作業時には細かな肉片が飛び散る.
ホルマリンが目に入ると危険なので,除肉の仕上げは必ず水洗後に行うこと.
とりあえずここで今回の作業は終了.


以降は今回の補足.
●ホルマリンの固定について
まず換気に注意する.
密閉容器に入れ,できればジッパー付きのビニールなどで包んだ方が良い.
未固定の状態では腱や関節に柔軟性があるため,顎をくぱぁしようと,多少捻れようと,問題ない.
ところが,固定後は関節の柔軟性が失われてしまい,少し力を加えただけで,脱臼のような破損が起こる(骨格自体が折れる破損よりも多かった).
まだ試行錯誤中だが,今回のサイズであれば,一昼夜で固定は切り上げている.
基本的に水洗完了までの作業は,2〜3日で終了させるつもりで計画を立てた方が無難だ.


●頭骨は敷居が高いと感じたなら…
無理せずに取りやすいパーツだけにしてしまうのもアリだ.
口唇軟骨などはかなり敷居が高い.
いっそのこと顎だけ取ってみるのもアリだろう.
顎取り経験者なら,防歪効果を実感して貰えると思う(特に小型サメの顎の場合).

●歯抜けについて
次回から使用するPEG溶液は再使用可能なので,不要なロスを抑えるためポージング用の紙を抜き取る.
その際必ず歯の流れに沿った方向(飲み込む方向)に抜き取ろう.
ただでさえ歯を使い捨てする魚種なのに,湯ざらし除肉の熱で,歯がかなり抜けやくなっているのだ.


本日の魚
ドチザメ:Triakis scyllium Müller & Henle, 1839


参考文献
遺物の保存と調査(沢田 正昭,クバプロ)
posted by osakana at 12:39| 埼玉 ☔| Comment(0) | TrackBack(0) | 魚話 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2012年07月15日

魚話その191 実験屋ケンちゃん

●安全な実験操作をするために


続きモノを中断させて恐縮なのだが,思いつきでネタを選んでいるので,ご勘弁.
他にも理由はあるのだけれど,それは更新時に.
次回は続きに戻る(予定).

発端は軟骨標本.
薬品が直接肌に触れないようにするため,手術用のゴム手袋を着用して作業している.
素手の感覚をスポイルしたくないという意見は非常にわかるのだが,教育的配慮ということで,ここでは手袋着用を前提で書く.


いわゆるバイオテクノロジーを扱った実験では,総量1ml未満の薬品同士を混ぜて実験をすることが多く,指先から落ちる皮膚や埃が混入すると,想定とは異なる結果になってしまうことがある.
そういった状況をコンタミした(英語のcontaminationより)と言い,大学の実習で頻繁に耳にする言葉ではないかと思う.
外部から混入したホコリがデータを増やしてしまったり,サンプルを分解してしまったりと,様々な状況をひっくるめてコンタミと呼ぶので,なかなか便利な言葉なのである.
例えば魚のある遺伝子配列を調べようとして,明らかにヒト由来である遺伝子が同時に検出されてしまった場合,『ヒトの組織がコンタミした』という表現になる.
『ヒトと同じ配列である可能性も追求すべきでは?』と言われそうだが,全ゲノム配列が明らかになっている魚種がいるので,それを参考に即比較検討することが可能だ.
自分が経験した範囲でしかないが,やっぱりヒトはヒト,魚は魚で互いに似る.

さて.
冒頭で述べたゴム手袋である.
ヒト由来のコンタミ予防のみならず,人体に有害な薬品を取り扱う際にも有効なので,実験では必要不可欠な道具の一つだ(図1).


sb19101.jpg
図1.実験用グローブ


ところが,手袋を着用することで油断するのか,大胆な動作になる人が少なくない.
例えば,普段素手でも触る部屋のドアノブや携帯電話(咄嗟の試薬の量の計算とか,メールとか…ね)をそのまま触ってしまうこと.
自分のサンプルがコンタミで自滅するのは勝手だけれど,有害物質がついた手袋でそういった場所に触れ,知らない人が素手で触れるということだってある.
ピンポン汚染とでもいおうか.
手袋イコール完璧と思っていたら,いつか痛い目に遭う.
面倒くさがらずに着脱すればいいじゃないと思うかもしれないけれど,実験用手袋は手汗で極めて着用しづらくなる.
そのため,数分の待ち時間であれば,手袋を付けっぱなしにしてしまう状況も凄く分かる.
是非とも実験時の手袋の扱いを,再確認したい.

似たようなことは実験器具の開閉にもいえる.
図2はエッペンチューブという容器.


sb19102.jpg
図2.エッペンチューブ 写真は蓋を開けたところ.上部の蓋を閉めると,約1.5mlの密閉容器になる.



古い映画の科学者が持っている試験管とかの小型版と思ってくれればいい.
各種技術の向上で,より小スケールでの実験が可能となったわけだが,ホコリ1粒の影響が出やすくなったとも言える.
そのため,蓋の開閉もできれば気をつけたいところ.
右手なら左側・奥のチューブから開け,右側・手前のチューブから閉じるようにしてきた(図3).


sb19103.jpg
図3.エッペンチューブを実際に使用しているところ


あくまでこれは僕のルールで,気にしすぎなのか当たり前なのか知らない.
ただ,ラボで人間観察していると,実験の巧い下手が見えてくると思う.
言葉では出てこない細かなコツを,巧い人を観察して是非とも盗んで欲しいと思う.
タグ:実験
posted by osakana at 13:48| 埼玉 ☔| Comment(0) | TrackBack(0) | 魚話 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2011年12月11日

魚話その190 リアルタイムじゃないホネ取り(サメの頭部骨格標本)〜その1〜

注意!
・解剖の描写があるので,ご注意ください.
・本文中に『一般入手できる』というニュアンスの記述がありますが,一般家庭での作業を推奨する意味ではありません.
・高校や大学の生物系サークルなど,大型専門機器の購入が困難ではあるものの,しかるべき施設と知識を持った人が対象です.
・ホルマリンを扱うので,その取り扱い方法/処理方法が確立している方々を対象としております.
・ポリエチレングリコールとエチレングリコールは別物です(危険度も).
・現在も試行錯誤中の手法であることにご留意ください.
・最初のうちは入手が容易な種の,特に顎(頑丈かつ歪みやすいなので)を使って試されることをお勧めします.
・本件での事故や貴重なサンプルの損傷は一切責任を取れません.



最初に前回の補足.
今回の手法が試行錯誤中であることは何度も書いているが,サイズ制限の話を書き忘れていた.
サメのサイズ大きくなるほど薬品の量が増えるのは想像に難くない.
『魚話その187』で述べたように接着剤が使えないため,分割して処理をするのが難しいのだ.
薬品節約のため,耐熱ビニールに入れる等の対処法を試したが,ちょっとした手違いで圧迫され,吻軟骨と鼻殻が曲がってしまった.
結局きちんとした容器を用いる方が無難だ.
また,種によっては華奢なパーツが多い場合もある.
そういった種では,液交換時に収縮・変形することがあった.
それでも,ただ風乾するよりは歪みが少なかったのだけれど…

前置きはここまで.
さっそく実際の作業に移ろう.
ホルマリンに浸す前までの手法は,一般的なサメの顎取りにも応用可能だ.
用意するのは,100℃まで測定可能な温度計とお湯.
全長1.5m程度のサメまでは,上記の2つでホネ取りの90%はなんとかなった.
それ以上のサイズとなると,サメ本体のサイズがかなり巨大になり自宅の冷凍庫には収納不可能なため,未経験.
イタズラに大きくすると,以降の作業で必要な薬品の量もコストもバカにならないので,サイズはあまり欲張らない方が良い.
これに加えて眼科剪刀(先反り)とピンセット,スパチュラ(調色スティック)があれば完璧だが,似たようなもので代用可能だ.


sb19001.jpg
図1.用意する道具と手頃なサイズのサンプル @眼窩剪刀,Aピンセット,Bスパチュラ,C温度計


まず60〜65℃の熱湯を用意し,サメの頭を浸す.
この温度が結構大事で,これより低いと除肉ができず,高いと肉や骨格を通じて歯の根元が熱くなり歯も抜ける.
歯が抜けてしまうので,首元→背中→側面→吻部という順番で歯を避けるように浸す(図2).


sb19002.jpg
図2.湯引き処理の様子 a)首元,b)側面,c)吻部


いずれの部位も5〜10分程度で皮がブルブルになるので,これを爪やスパチュラでこそぎ落とす(図3).
軟骨を傷つける恐れがあるため,この段階ではハサミは極力使わないようにすること(刃物を使わなくてもこそぎ落とせるくらいに加熱処理してある方が,綺麗に仕上がる).
やむを得ずハサミを使用する場合は,剥がれたウロコを必ず流水ですすいだ後にしないと刃がボロボロになるので注意.
所要時間は1時間ほど.
慣れればもう少し速くできる.


sb19003.jpg
図3.除肉の様子 a)湯から上げた直後,b)スパチュラでこそげ落としている様子,c)除肉がさらに進んだ様子,d)スパチュラによる除肉終了の目安 (クリックで拡大)


視神経や腱を残すのみとなったら,ハサミの出番(図4).


sb19004.jpg
図4.ハサミによる除肉開始の目安(図3dの流水洗浄後)


置換歯を隠している歯茎や,口蓋の皮や肉を切り取る.
PEG処理では乾燥による収縮が少ないため,取り残した肉の凹凸がそのまま残ってしまう.
接着剤が効かないので交連状態を維持する必要があり,腱や一部の肉を残さねばならない.
切って良い肉か否かを慎重に判断しよう(図5).


sb19005.jpg
図5.注意すべき部位(仰向け姿勢で撮影) a)頭蓋骨と上顎を繋ぐ腱(種類によって繋がり方が異なる)と吻軟骨,b)口唇軟骨


自己満足の世界ではあるが,前述したように除肉後の形状がそのまま残るので,納得するまで作りこんで欲しい.
穴の除肉には歯間ブラシなども便利だ.


sb19006.jpg
図6.見落としがちな部位 鼻殻の内部(黄色矢印),顎関節(青矢印),眼窩の穴各種(赤矢印)


表面に残った肉は刃物を使うよりも,キムワイプなどで拭いてやると綺麗に取れる.
気が済んだらペーパータオルを使って口を開いているようなポーズに整える.
歯が抜ける可能性があるので,舌と口蓋の部分(歯よりも少し咽寄り)にペーパータオルをあてがう方が良い.
ホルマリン原液の20倍希釈液に浸し,本日の作業は終了(図7).


sb19007.jpg
図7.ホルマリン処理 a)ポーズの設定,b)ホルマリンに浸している様子 
※機材の関係上,除肉が不完全な状態で撮影してしまったが,実際にはもっと除肉してからホルマリン固定した方が良い.


本日の魚
ドチザメ:Triakis scyllium Müller & Henle, 1839
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2011年12月10日

魚話その189 リアルタイムじゃないホネ取り(サメの頭部骨格標本)その0 〜予備情報〜

●軟骨標本作製に必要な情報など


過去に『リアルタイムホネ取り』と題し,魚の骨格標本作成法について紹介したことがある.
あれは硬骨魚類が対象で,基本的には四足動物と同様である.
今回は軟骨魚類の骨格標本作成法の様子.
何度も触れているように,軟骨魚類の骨は水分などの揮発性物質が多く,乾燥とともにひしゃげてしまう(図1).


sb18901.jpg
図1.乾燥に伴い歪んでしまったドチザメの顎(スケールバーは1cm) a)左前方,b)下顎腹側 下顎後端は通常ここまで反り返っていない


その歪みを改善したので,速報的に紹介したのが,『魚話その187』
ただし,現在も試行錯誤中の手法であり,また,一般家庭では夏場の高温多湿を乗り切れるのか不明なのが問題だ.
また,僕が個人入手できるサメは現状ではせいぜい全長1.5mが上限である.
使用する樹脂はそれほど頑強ではないので,大型のサメや華奢な構造物には強度が足りないかもしれない.
しかし,僕が軟骨用に簡略化アレンジしたことを除けば,考古学などではすでに当たり前の手法である.
僕自身は秘密にする気は無いので,皆が楽しめればよいなぁ…と思い公開しているのだが,注意点もある.
一つは特許との絡み(後述).
もう一つはホルマリンなどの薬品を使うので,ドラフトや廃液回収などの設備が整った少なくとも高校の実験室レベルの施設を想定していること.
したがって,該当しない人はただのブログとして読み飛ばして欲しい.
個人で試して事故が発生しても一切責任を取れない.
とりあえず今回は序章として,標本作製に必要な周辺情報をば.


・大まかな原理
キーとなるのはポリエチレングリコール(以下PEG)という水溶性の高分子.
水溶性で,乾燥するとカチカチになる.
また,溶解度が高く(図2),融点が60℃ちょいと低いのも特徴だ.
この物質を使った処理の概略が図3となる(フローは『魚話その187』の図1).


sb18902.jpg
図2.PEG 4000が溶ける様子 a)1リットルの60%(w/v)PEG溶液用に用意したPEG 4000の顆粒,b)水を加えて半日後,c)1日後


sb18903.jpg
図3.軟骨標本作製の概要 a)風乾,b)エタノール脱水(有機系樹脂への置換のに必須な前処理),c)PEG処理


・骨格の部位の名称
サメの骨格標本は水族館でも目にする機会が少ないせいか,骨格の名称が硬骨魚類ほど詳細に掲載されているサイトが見つからなかったので描いてみた(図4).


sb18904.jpg
図4.ドチザメの頭骨(左前方より) a)防歪処理済みの頭骨,b)各部位の名称(スケールバーは1cm)


いろいろ名称を書いたが,とりあえず覚えておいて欲しいのは吻軟骨,鼻殻と口唇軟骨.いずれも成功or失敗の指標となる,標本作製のキーパーツだ.


・特許との絡み
毎回書いているのは,僕が法律に疎いため.
『よろしい,ならば勉強だ』といきたいところだが,どこから手をつけてよいのかがまったく判らない.
高校や大学の部活動で学会や公的イベントで発表した際に一悶着あったとしても,『学校だから例外』として認められるのかが僕にはわからない.
なので,とりあえず僕が公開されている手法から解釈していることを書いてみたいと思う.
1.PEG処理の下準備に凍結乾燥する(染み込みやすくなる手法)
2.PEG溶液を減圧して浸透させる(染み込みが速くなる手法)
3.PEG処理した標本を凍結乾燥する(形を崩さないように速やかに乾燥させる手法)
4.乾燥したPEG処理済の標本を加熱処理する(染み込んだPEGを頑丈にする手法)
この1〜4をやるとNGになると僕は理解している.
創意工夫はとても大事だと思うのだけれど,特許になっている以上は十分気をつけて欲しい.
また,この手法自体は特許庁から短い和文で公開されているので,原文をぜひ読むべきだ.
僕の素人解釈を鵜呑みにして共倒れになる可能性は高い.


…長々と書いたが,次回から実際の作業紹介に移りたいと思う.


本日の魚
ドチザメ:Triakis scyllium Müller & Henle, 1839


参考文献
新魚類解剖図鑑 (木村清志,緑書房)第1版,P72
生物起源のものの標本作成法法(特開平10−287501)付属資料
posted by osakana at 00:42| 埼玉 ☔| Comment(0) | 魚話 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2011年12月05日

魚話その188 ヒツジさんをディスるな

●未年の魚は存在しない?


2011年になって既に8000時間近く経過してしまった.
実はこの文書ファイルは2011年元旦にできたのだが,年賀状の作製シーズンに合わせて寝かせておいたのだ.

事の発端は去年の暮れ.
毎年干支にちなんだ魚を挨拶状に描いてきたが,そもそもどれくらいいるのだろうか?
そんな疑問を抱き,さっそく調べてみた.
『魚図鑑の向き』ネタと違い,ありがたいことに魚名には『日本産魚名大辞典』という総覧が存在する.
3000弱の日本産魚類に対し,標準和名+方言を約15000,学名+英名を約18000,中国名を約2000,ロシア名を約1000掲載するという怪物書籍である.
収録数は僕が大雑把に目次から算出したが,実際には同名異種も多く,収録魚名数としてはもう少し増えるはず.
1981年出版と古いが,ここまで網羅した書籍が存在せず,魚名関連の文献を逐一調べていたらこちらがパンクしてしまう.
そのため手抜きではあるが,日英33000語とのニラメッコのみとした.

ルール
・干支に相当する動物の名称が入っている場合も数える
 例:カラスザメ(烏鮫)→酉,タカノハダイ(鷹羽鯛)→酉
・干支を含むが,人名由来などの場合は数えない
 例:カモハラトラギス→(鴨の腹ではなく,蒲原さんに由来するので,寅)
・干支を含むように見えて,異なる区切りの単語であった場合は数えない
 例: フクロウナギ(フクロウ・ナギではなくフクロ・ウナギ)
・複数の方言を持つ場合,同じ干支なら一つ(例1),異なる干支なら干支の種類分(例2)数えた
 例1:トラギス,トラハゼ(いずれもアカトラギスの方言)→寅として1
 例2:ウシヌスビト,トラハゼ(ウキゴリの方言)→丑,寅としてウキゴリをそれぞれの干支に1
・資料が古いので,和名の変更を加味し,『日本産魚類検索(第二版)』で確認
・最新情報は僕が追いつかないので省略
・全て素人による個人の手作業なので,見落としや誤認はご勘弁
・本当はロシア語と中国語,学名も集計したかったのだが,面倒なので照合が大変なため泣く泣く今回はパス.

さて.
標準和名,方言,英名を集計した結果が以下の通りだ(図1).


sb18801.jpg
図1.標準和名,方言,英明において干支を冠する魚名 a)集計した魚種数,b)干支を冠する魚類のうち占める比率



スズメダイは仲間が多いので酉に偏るかなぁ…という予想を遙かに上回り,結果として2位である巳に倍近い差がついた.
方言も似たような傾向であったのに対し,英名では酉の圧勝モードが若干弱い.
次点は巳と寅.
それぞれ模様や形状などにちなんで命名されているためだろうか?
一方,調べた資料からは干支の抜けも散見された.
特に未は標準和名,方言,英名ともに存在せず,ある意味興味深い.
ヒツジが国内に導入されたのが明治の初頭ゆえ,魚のあだ名に用いられるほどの馴染みがなかったのか?
しかしながら,サルやイノシシといった日本人には馴染み深い動物も『抜け』が存在することから,形態にちなんだ命名にも得手不得手があるのだろう.
また,方言データの蒐集に関しても,日本産魚名大辞典は大量の文献を引用しているとはいえ,引用元の研究対象地域が特定の地域に焦点を当てているものであれば,情報の充実度も地域によって粗密が出うる.
一つの理由で『抜け』を説明できるとは到底思えないが,上記のような理由があるのかも…と想像してみるのも楽しい.
ところで,どこかにヒツジを冠する魚はいないかなぁ…と考えていたら,Sheephead fishという人間のような歯を持つ魚のことを思い出した.
名前は知られていないかもしれないが,魚ネタ画像や2chなどでリンクが貼られる魚だ.
そんなわけで,案外ウェブ上では有名な魚が未を冠しているのであった.

毎年毎年干支にちなんだ魚を見つけ出し,展示を行っている水族館には恐れ入る.
あれこれ書いていたら,あと700時間で2012年である.
年賀状の図案に少しでも役立てたら,幸いである.


本日の魚
大量にあるので,sb188SUPPLY.pdfに掲載.


参考文献
日本産魚名大辞典 (日本魚類学会,三省堂)第1版
日本産魚類検索 (中坊徹二,東海大学出版会)第2版
魚介類2.5万名前大辞典 (日外アソシエーツ)第1版
posted by osakana at 01:58| 埼玉 ☔| Comment(0) | TrackBack(0) | 魚話 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2011年10月21日

魚話その187 柔らか頭を硬く取る

●PEG含浸と軟骨魚類の骨格標本

注意!
・本文中に『一般入手できる』という記述がありますが,一般家庭での作業を推奨する意味ではありません.
・高校や大学の生物系サークルなど,大型専門機器の購入が困難ではあるものの,しかるべき施設と知識を持った人が対象です.
・ホルマリンを扱うので,その処理方法が確立している方々を対象としております.
・ポリエチレングリコールとエチレングリコールは別物です(危険度も).
・現在も試行錯誤中の手法であることにご留意ください.



配付資料供養ネタ第3弾.
実際にサメの顎を取ったことがある人ならば分かると思うが,軟骨魚類の骨格は,ただ柔らかいだけでなく,乾燥と共に歪みが生じてしまう(図1).


sb13701.jpg
図1.乾燥に伴うトラザメの顎の変形 a)乾燥前,b)乾燥後 scale bar : 1 cm


凍らせながら水分を昇華させる『凍結乾燥』は一つの解決法だが,機材が数百万するので,現実的ではない.
また,この手法で家庭向きな冷凍庫での乾燥法こと『冷凍乾燥』は歪みを軽減できるものの,幼い個体ではヒビ割れが生じてしまう.
これらの予防策として樹脂を染み込ませる方法は『魚話その85』で既に触れているが,当時は,良い樹脂が見つからなかった.
いわゆる身近な樹脂は石油系樹脂が多く,樹脂浸透に先立って脱水(完全な乾燥)が必要なため,歪んでしまう.
一方,水溶性樹脂であれば,完全な脱水と樹脂への置き換えが同時に行われる.
もしそんなすてきな樹脂が見つかれば,徐々に濃度を上げていくことで,軟骨を歪ませずに樹脂を染み込ませることが可能だ.


sb13702.jpg
図2.サメの骨格標本作製方法 a)風乾,b)冷凍乾燥,c)石油系樹脂,d)水溶性樹脂


樹脂との出会いは唐突であった.
ある日,呑み会にて,Aさんからポリエチレングリコール(PEG)含浸の話を聞いた.
遺跡から出土した木材は大量に水分を含んでいることがあり,発掘後に放置しておくと,乾燥で歪んでしまう.
それを防ぐためにPEG含浸などの処置が行われるそうだ.
この手法が,剥製業界でもブームになりつつあるのだという.
これは軟骨魚類の骨格とよく似ている(図3).


sb13703.jpg
図3.風乾に伴う軟骨魚類の顎の重量変化(トラザメおよびカスザメ)
scale bar : 1 cm

調べてみると大掛かりな機材が必要で,一般には手が出せない.
ただし,木材に染み込ませる際には細胞壁が難点のようで,動物にはこれが無いため,機材や手法をアレンジできそうだ.
一般入手できる範囲の機材で何とかアレンジした結果出来上がったのが下記の手法である.
機材の関係で小型標本に限定されるが,そこはご勘弁願いたい.

PEGは重合度によって液状〜フレーク状まで種々ある.
今回は含浸法の資料で見かけたPEG4000(500gで約2000円)を購入し,以下の処理を行った.


sb13704.jpg
図4.PEG含浸処理のフロー 筆者が行なっているPEG含浸処理を示した.現在も試行錯誤中であることに留意されたい.


100%まで置換したいが,機材・金銭的に現実的なのは80%(w/v)程度までであろう.
少なくとも60%までは常温で水に溶け,80%は湯煎で溶ける.
僕は定温調理機能付きのIHクッキングヒーターで60℃処理しているが,メーカー保証の対象外になるので,自己責任で
手法の更新に伴い,IHクッキングヒーターでは対処しきれない長時間処理が必要になったので,使用しないでください.
処理の効果を図5aに示したが,歪みの軽減がおわかりいただけるだろうか?


sb13705.jpg
図5.PEG処理の効果 a)トラザメ顎(上段:乾燥前,下段:乾燥後),b)ノコギリザメ頭骨(入手時に吻は切断されていた) c)ドチザメ上半身(鰓付き) aは撮影時の角度が若干異なっているのでPEG処理も歪んでいるように見えるが,実際はほとんど歪んでいない.cはフラッシュと液跡の残る新聞紙のせいで湿っているように見えるが,実際の触感はサラサラしている scale bar : 1 cm


MSDSを見る限りPEGは危険性が低そうであるが,可燃性や強酸化剤との反応性があるので,除肉や固定後ののすすぎは念入りに.
また,独特の臭いが出るので,排気装置などを使用すべきだ.

また,PEG含浸処理標本にも弱点はある.
第一に接着剤が効かない.
針金固定による連結か,交連状態を維持した状態でPEG処理する必要がある.
第二に高温多湿に弱い.
日向の窓辺や車内に置くのは論外だ.
博物館など,保管環境が整った施設ならば良いが,通常はそうもいくまい.
大型のタッパー+乾燥剤での保管がベターだ.
第三に除肉のごまかしが効かない.
従来の手法では多少の肉は乾燥で目立たなくなっていたが,PEG含浸処理では全ての収縮が抑えられるので,残った肉が目立つ.
第四に特許が絡む.
主に硬化方法に関し,既に特許が受理されている(公開番号:特開平10−287501).
特許に抵触する可能性があるので,凝った方法を思いついた場合,一度チェックしておく必要がある.
本当はもう少し試したかったのだが,サミットでの配布資料と講演をきっかけに始めたアレンジであるため,まだまだ手探り状態だ.
軟体動物のPEG処理標本が少なくとも数年経っても変化がないという報告もされているが,どれくらい持つのかは不明である.
とはいえ,軟骨骨格標本に明るい未来が見えてきた気がするのは僕だけではあるまい.
『サメは骨格標本が作れない』といった魚ネタサイトが大量にあり,多くはそこで完結か,透明骨格標本に話題がシフトしてしまうことが多い.
そのような中で,その常識を覆すべく,このマイナーブログでひっそりと開発・発表していると想像すると,非常に楽しかったりもする.


本日の魚
カスザメ Squatina japonica Bleeker, 1858
ドチザメ Triakis scyllium Müller & Henle, 1839
トラザメ Scyliorhinus torazame Tanaka, 1908


参考文献
増田 修 他(2003)水溶性樹脂を用いた水棲動物の標本作製の試み(予報).兵庫県陸水生物,55,59-62
遺物の保存と調査(沢田 正昭,クバプロ)
生物起源のものの標本作成法法(特開平10−287501)付属資料
ポリエチレングリコール4000のMSDS(ナカライテスク)→リンク
posted by osakana at 01:01| 埼玉 ☔| Comment(3) | TrackBack(0) | 魚話 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2011年10月13日

魚話その186 軟骨と硬骨のあいだ rot

●軟骨魚類の石灰化


供養企画第二弾かつ,約10ヶ月ぶりの続編.
軟骨魚類といえば,雑学系書籍に『全身が軟骨だから,大型のサメでも包丁で切れるほど』といった文章が掲載されることがある.
確かに我々が認識する,リン酸カルシウムで構成される『硬骨』は持たない.
ところが,軟骨魚類も石灰化した(=カルシウムが沈着した)パーツを持っている.
どう表現したらよいか…
図1に記したような,硬骨の間に軟骨が挟まるというのが,我々の‘硬骨/軟骨観’ではなかろうか.


sb18601.jpg
図1.関節の模式図


ところが,軟骨魚類の背骨部分のそれは,軟骨の内側が石灰化している.
魚類関係の教科書にも掲載されているのだが,意外と図版は少なく,カラーの画像はさらに少ない.
そこでこの際自分で撮影してしまえ!ということで,サメの骨格を調べることにした.
イタズラ好きな僕としては,このテの,常識とちょっとズレたネタを準備している時が一番楽しいのである.

さて.
長い前置きはここまでにして,手元にあったドチザメの背骨を用い,染色してみた.
用いた染色液や原理は最近流行の透明標本とまったく同じ.
要はスライスした脊柱をアルシアンブルーとアリザリンレッドで染め分けただけ.
薬品のくわしい話は魚話その**に書いたとおりだ.

早速結果を見てみよう.


sb18602.jpg
図2.ドチザメ脊椎骨の染色標本 a)未処理の脊椎骨,b)アリザリンレッドおよびアルシアンブルーによる染色.aに振った番号とbの切断方法と合わせてある.bの一部が崩れているのは,薬品処理中に撮影し,分解が進んだため


赤く染色された部分,すなわち石灰化部分のパターンはかつてサメの分類にも用いられていたようだが,『複雑なので今はあまり行なわれていない』ともある….
断面によってパターンが変わるので,どこをどう切るかの統一やデータの検索も難しいのだろう.

別の用途もある.
この断面に注目して欲しい.
筋のようなものが見えないだろうか?
おそらくこれは年輪と思われる.
実際に検証した訳ではないので鵜呑みは厳禁だが,X線写真で浮かび上がる軟骨魚類の年齢査定のパターンとよく似ている.
耳石や鱗など,硬骨魚類では年齢を査定できるパーツはいくつもあるが,軟骨魚類の場合は硬いパーツが限られている.
ツノザメの仲間など,背びれに棘を持つサメではその模様にも年齢とリンクしたリングが現れるが,棘を持たないサメのことを加味すると,脊柱の方が汎用性は高そうだ.
ただし,棘の場合はサンプリング後に放流できるので,一長一短ではある.


sb18603.jpg
図3.アリザリンレッド染色により浮かび上がった筋模様 a)未処理の脊椎骨,b)アリザリンレッドおよびアルシアンブルーによる染色,c)図3b点線部分の拡大写真.aに振った番号とbの切断方法と合わせてある.年輪とおぼしき部分を矢印で示した.



注意点を一つ.
他にふさわしい言葉が思いつかなかったので『年輪』と書いたが,1年で1つ筋が入るかが不明である.
仮に鱗や耳石などと同じであれば,最初の年にどのタイミングで冬眠を挟むか等々の条件で本数が変わる可能性がある.
また,削り過ぎによる年輪の消失や切削器具による傷と年輪を誤認することにより,年齢査定を誤る可能性があるので要注意だ.
とはいえ,何らかの周期で暦を示す形質ではありそうだ.

周囲がぼちぼち三十路を迎え,友人達も年齢をかなり気にし始めた.
僕は昔から年上に見られることが多く,ようやく年齢が追い付いてきたという気分なのだが,世間一般ではそうでもないらしい.
迂闊に年齢を尋ねることも憚られる昨今.
その点,魚の年齢は気軽に尋ねることができるので,非常に気が楽である.


本日の魚
ドチザメ Triakis scyllium Müller & Henle, 1839

参考文献
河川の生態学 補訂改装版(水野信彦 他,築地書館)
posted by osakana at 00:00| 埼玉 ☔| Comment(0) | TrackBack(0) | 魚話 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする