半年ぶりの更新である.
前回で作業は終了だが,変色や異臭がないかしばらく様子見をしてから完成としている(特に人に渡す場合).
完成直後は白くても,数ヶ月で真っ黄色/まっ茶色に変色してしまったこともあった.
徹底的な真っ白さを目指してはいないが,あまりにも変色が酷い場合は残留した脂が虫やカビ,異臭の原因になり,好ましい事態ではないので,
なお,日焼けによりうっすらクリーム色に落ち着くくらいは許容範囲と考えている.
Fig. 1 半年後のチカメキントキ全身骨格
さて.
以降はイベントやSNSなどでホネ話をしている際に出てきた話題や質問を交えつつ.
1.手法の変遷
ざっくり書くとFig. 2の通り.
Fig. 2 作業の変遷
一般的な感覚では「時間がかかり」「面倒くさく」なった感じ.
今回のチカメキントキもたっぷり2ヶ月かかっているし,たくさんの魚をこなしたい人に敬遠されそうだが,全行程の2/3は薬品処理の待ち時間や休日までの時間調整等々によるので,間に別の用事をがしがし詰め込んでいる.
実際チカメキントキの作業待ちで7魚種のホネ取り,依頼物の工作を3件ねじ込んでいた.
2.材料調達とか
企業秘密…といきたいところだけれど、鮮魚店か友人知人らからの釣り・漁労くず拾い・ビーチコーミング・飼育死亡個体等々の譲渡が主だ.
たとえ珍魚に強い店舗であっても,天然物なので頻繁にチェックできる距離にある鮮魚店を優先して通っている.
スーパーの鮮魚コーナーもピンキリで,スズメダイやベニテグリ,シュモクザメが入荷するような店もあれば,サーモンやマダイの切り身パックしかないような店もある.
新しく土地に引っ越して見つけた鮮魚店で通うか否かを判断する個人的基準は
・マルの魚が並んでいる
・季節によってスズキやトビウオといった魚が並ぶことがある
・○○直送みたいなチラシがある
辺りだろうか.
曜日や季節によっても揃えが変わるので,毎週同じ曜日しか覗いていないようであれば,曜日を変えるのもありだ.
あとは珍魚を扱っている店舗からの通販も1つのやり方だと思う.
しょぼい話ではあるけれど,珍しい魚を見つけてもあまり入手した店の情報は公開しないようにしている.
他者との競合を防ぎたい…というみみっちい理由もゼロではないが,どちらかというとむやみやたらと問い合わせの連絡が届くようになって迷惑をかけてしまうのを防ぐ意味合いの方が大きい(詳細は伏せるが,そんなエピソードを聞いてしまった).
3.展示環境とか
自宅にホネを飾り始めたのは就職して一人暮らしを再開した2010年以降で、それまではプラ製のコンテナに収納し,たまにイベント展示する程度であった.
生き物やモノづくりが好きな友人らを呼んで呑み会をするようになってからはホネの数も増え,2010-2015年は6畳間に(Fig. 3a),一軒家の賃貸に転居した2016年以降はこんな感じで飾っている(Fig. 3b).
Fig. 3 魚のホネ部屋兼居間兼呑み会部
a) 2010-2016年,b) 2016年以降
掃除に耐える大きくて丈夫なホネは棚の上に,壊れやすいホネに関しては市販の薄型コレクションラックやケースに収納している.
虫害やカビが地味に鬼門で,「何年も飾ってて無縁だったのに,突然沸いた」という事例は自分を含め周囲でも結構起きている.
虫害に関しては,シバンムシやカツオブシムシ等が知られており,ホネに残った軟組織等を餌にすることがある.
大量発生すると部屋ごと燻蒸する必要が出てきてすごく面倒なので,ホネを飾っている台の下に細かな粒が見え始めたら要注意だ.
4.撮影とか
個人的な好みと見やすさ,編集しやすさを兼ね,黒背景での撮影が多い.
手芸品店で購入した普通の黒布を用い,照明1,三脚,小さなレフ板1〜2枚で撮影している(Fig. 4a).
僕の撮影台は工作机を兼ねているため布に埃が付きやすこまめに洗濯するため,黒背景専用の低反射布はもったいなくて使う勇気がない.
上方から光を落としてやれば案外しっかり黒背景を確保でき,眼窩や下顎など陰になる部分を下からレフ板で照らせば,いい感じに撮影できる(Fig. 4b-d).
下面は光を拾ってしまうので台に乗せて映り込まないようにするか,テクスチャとして割り切ってしまうことが多い.
Fig. 4 撮影の様子
a) 撮影の様子,b) 使用しているレフ板, c) レフ板なしで撮影, d) レフ板で下から間接光を当てて撮影
具体的な方法はフィギュアや模型撮影をする人の間で情報が蓄積・公開されている.
基本的に黒背景で白いホネを撮る場合は形状が優先され,色再現性はあまり重要視されていないので,比較的気軽に手を出せるのではないかと思う.
また,凹凸が多い小型のホネ(=ピントが合いづらくて全貌が分かる写真を撮影しづらい)に関し,ピントをずらしながら複数枚撮影して深度合成する方法がある(Fig. 5).
ここら辺も昆虫や鉱物などで手法が蓄積・公開されている.
僕はZerene Stackerという海外の有償ソフトを使用しているが,フリーソフトも各種出ている.
Fig. 5 深度合成のイメージ
握りこぶしくらいの頭骨だと,100枚くらい撮影して合成することもある.
記録メディアの容量やマシンスペックに注意…
5.補強とか
ミノカサゴやホウボウのように長い鰭条を持つ魚では,温湿度が調整されている博物館と異なり,自宅の雑な保管環境やイベント出展時の輸送に伴う湿度変化で整形した鰭条が変形してしまうことがある.
また,塩素系ハイターなどによる長時間処理により,手を触れると粉が付くほど表面が劣化してしまうこともある.
いずれもあまり気持ちの良い状況ではないので,僕はアセトンで希釈したパラロイドB-72という薬品を薄く塗りつけることで対処している.
パラロイドB-72は美術品の修復や化石の補強等、様々な分野で重宝されているアクリル系樹脂で,エタノールやアセトンに溶かして使用する.
経年変色がないのが売りとされているが,僕自身が魚のホネに塗って長期的な経過観察をしたわけではないのでホネに対しても同様なのかは不明だ.
しかし,いざという時にはアセトンで再溶解して除去もできそうなので,導入・様子見している.
変な光沢が出ると格好悪いので1〜5%程度の薄い溶液に調整し,何度も染み込ませるようにして使っている.
Fig. 6 パラロイド B-72による補強
a) 過度の塩素系漂白剤処理により脆化したコブダイ上顎骨の表面, b) 輸送中の温度・湿度差により再変形してしまったホウボウの鰭条, c) パラロイドB-72のペレット
以上つらつらと書いたが,2007年に書いた内容の更新と供養は済んだ気がする.
40歳を過ぎて年齢的にも細かい操作や体に無理が効かなくなってきたので,今後はじっくりまったりやっていきたいと考えている.
というわけでシン・リアルタイム骨取りはこれで完結(ブログが終わる訳ではないけれど…).
長々とお付き合いいただきありがとうございました.
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